前編から続く)

ツールを使った情報共有と会議による情報共有を使い分ける

――今度は、社内での仕事術について伺います。ディレクター職ということで、チーム内の情報共有をうまくやることが重要になると思うのですが。

坪田:そうですね。情報共有のため、イントラネット上の社内ツールとしてはWiki※1とBTS※2があります。それとメール、IRCが主なツールです。それ以外に、皆で集まっての会議も多いです。

ライブドアで利用されているWiki。サービスの仕様や進捗状況などを複数人で書き込み、情報共有に役立てています

――IT企業だとなんでもメール等で済ませて会話が少ないようなイメージを持たれることもありますが、当然ながら会議も重要ですよね。具体的には、どのような場合に会議を行うのでしょうか?

坪田:全員の意思表示がほしいときです。ブログのチームは営業も含めて20人以上になるので、全体会議としてみんなを集めて会議をします。数名で済むものは、チャットやメールベースで行うことが多いです。

石野:僕の場合は2パターンあって、ひとつはブレストしたいときです。例えば「1時間livedoor クリップのことについて考えてください」というテーマで集まって、時間内にアイデアを出せるだけ出すような形ですね。もうひとつは認識のギャップを埋めたいときです。メールでは全員に間違いなく話を行き渡らせるのは難しいので、皆で集まって説明していく中で、ちょっとした認識の違いなどが出てくるので、その場で話して埋めていきます。

Wikiでアジェンダ。話しながらWikiを編集

――会議はどのように進めるのですか?

坪田:ちょっと変わったところでは、Wikiを活用します。会議の前にアジェンダをWikiに書いておき、会議中は、プロジェクターで映したWikiのページに書き込みながら話を進めていきます。それがそのまま議事録になって、すぐにメールで(参加者以外にも)送ることができます。

――それは、ものすごく効率が良さそうですね。

坪田:Wikiによって個条書きで項目がまとめられるのが非常にいいですね。Wikiの情報はずっと残るので、会社の経験知を貯めておくような感じで使っている部分も多いです。

石野:新しく入った人向けに「初めての人がやっておくと幸せになるかもしれないリスト」なんてページもあります(笑)。過去のメールを探すのは大変ですが、Wikiは見つけやすいですからね。

――みなさんがパソコンを持って集まるのですか?

石野:そうでもないですね。その代わり、チーム内ではiPhoneの所有率がすごく高いので、会議中に話題になったサイトを見たり、メモを取ったりといったことをiPhoneで行う人が多いです。

――ちょっと見てみたい光景です。

ライブドアの会議風景。意外にもパソコンを持ち込む人は少なく、iPhoneを利用する人が目立ちます。坪田さん、石野さんもiPhoneユーザー

誰もが社内の全情報を見て、他部署の仕事にコメントできる

――メールの使い方で変わったところはありますか?

石野:ライブドア社内では、メールは特定の担当者間のやりとりであっても、プロジェクトごとのML(メーリングリスト)に送るのが基本になっています。そして、これはWikiやIRCでも同様なのですが、興味があれば他部署のMLも読んで、気になるところは担当外でもコメントできます。先日もlivedoor クリップの検索ボックスの位置について他の担当者からコメントをもらい、1時間ほどで改善したことがありました。

――システム的にそういうことが可能なのもすごいですが、会社の文化として定着しているのも、ちょっと珍しいのではないでしょうか。担当でない人からコメントされることを嫌がることもあると思うのですが。

坪田:いわゆる「縦割り」の組織だと難しいですよね。

ライブドア式は行動がだんぜん速い

――以前にお勤めだった会社とのギャップを感じることはありますか?

坪田:僕が以前勤めていた会社ではセキュリティが厳しくて、個人のパソコンは持ち込めないし、このような情報の共有もほとんど行われていませんでした。ライブドアに入って最初は驚きましたが、2~3カ月で慣れました。

石野:だいたいみんな、すぐ慣れるんですよね。

――ライブドア式でのいいところは?

坪田:行動がだんぜん速くなります。メンバー間の意識合わせもやりやすいし、スピード感がまったく違いますね。また、社員全員に常に見られているというのは、良い意味でのプレッシャーになります。

BTSがあまりにも便利なので「fixdap」として提供

――もうひとつのツールであるBTSについて教えてください

坪田:BTSは、基本的には開発用なんですが、グループで使えるToDo管理システムとして、ライブドアでは営業チームなども利用しています。社内のタスクが全部BTSに入っていて、管理できるようになっています。

石野:社内でのBTSやWikiの歴史は長いです。BTSがあまりにも便利なのでみんなに提供しよう、ということで作ったのが、現在livedoor labsで公開している「fixdap※3」です。

livedoor labsで試験的に公開されているタスク共有サービス「fixdap」。ライブドアで利用されていたBTSを元に開発されています

――となると、メールとlivedoor Wiki※4とfixdapを使えば、他の会社でもライブドア式の情報共有は可能になるわけですね。ちなみに、Microsoft Officeなどを使う機会はありますか?

石野:Wordはほとんどありませんが、Excelは計算やグラフ作成に使います。PowerPointは作図用や絵を見せたいときに、人によっては使うという感じですね。

坪田:もちろん外部向けの資料をまとめるのに使うことはありますが、社内で扱う情報はWikiにまとめるのが基本です。Wikiには画像も貼り付けられるし、PowerPointなどの文書もリンクできる。そして、段落による情報の整理が簡単にできるのが非常にいい。「Wiki上手は仕事上手」ですよ。これ、絶対書いてくださいね(笑)。

坪田さんのデスク。愛用しているMacBookは私物とのこと

大型案件のスタート時には全員で合宿

――最後に、集中術についても教えてください。メールやIRCなどで常時ネットにつながりコミュニケーションチャンネルが開いた状態だと、どうしても集中できない、もっと集中したい、ということがあると思うのですが。

石野:ちょっとした気分転換としては、僕はバランスボールを椅子代わりにしているので、反り返ったり、けったりします。いつもはIRCとSkypeとメッセ(Windows Live Messenger)を併用しているのですが、集中したいときにはSkypeとメッセを切ります。この2つは個人的な会話が入ってくることも多いので。あと、新着メールのチェック周期を、通常設定している時間よりも長めに変更して、割り込みのタスクが入らない状態にして集中することがあります。

坪田:大型案件のキックオフとして、全員で合宿をやることがあります。といってもどこかへ行くのではなくて、社内にある開発部屋にこもるというスタイルです。食べ物はあらかじめ持ち込み、IRCなどは切った状態で、外部と遮断して集中してやります。最近ではlivedoor Blogの管理画面リニューアルのときに合宿をして、みんなでアイデアを持ち寄って1日で方針を決めてしまいました。

――なるほど。適切な集中もはやり大事ですね。ありがとうございました。


石野さんのデスク。バランスボールが妙になじんでいます

 ライブドアは一時期「虚業」などと報道されたこともありましたが、実際は元社長の堀江貴文氏も技術者であり、従来も現在も高い技術力を誇る会社です。社内の文化にも、無駄がなくスピーディで、オープンな情報共有をよしとする技術者集団らしさが強く根付いていると感じました。

 こうしたシンプルかつオープンな環境は、ツールというよりは企業文化の問題なので、まねしようと思っても一朝一夕にできるものではないでしょう。ですが、変化の激しいこれからの時代に対応していく方法のひとつとして、大いに参考になる事例だと思います。

※1:Wiki(ウィキ)
ハワイ語の「WikiWiki(速い)」を語源とする、Webページを作成するシステムの一種。語源のとおり、簡単な記号を書くだけで見出しや段落など構造化された文書をすばやく作成できるのが特徴。
※2:BTS(Bug Tracking System:バグ管理システム/バグ追跡システム)
ソフトウェア開発に使われる、バグ(ソフトウェアの不具合)情報の共有・作業管理ツール。報告者がバグの内容や発生状況を投稿し、開発者が修正方法や修正状況を投稿する、といった形でチーム全体でバグ情報を共有・管理する。
※3:fixdap(フィックスダップ)
ライブドアが社内BTSLivedoor Labsで提供するタスク共有サービス。
http://fixdap.com/
参考:fixdap 開発日誌:タスク共有ツール「fixdap」を公開いたしました
※4:livedoor Wiki
ライブドアが提供するWikiサービス。
http://wiki.livedoor.com/