中編では、最近急激にユーザー数が増えているTwitterを利用した林さんの情報収集術を紹介しました。最後となる後編では、ITジャーナリストとして世界中を取材している林信行さんの時間管理術や取材術を伺います。また、米「Wired.com」で林さんの発言がねつ造された問題、そしてそれに言及した林さんのブログ記事から広がったさまざまな議論について、林さんの印象を語っていただきました。

今回の取材を行ったアカデミーヒルズの「六本木ライブラリー」。林さんの著書も並んでいます

「予定を入れない予定」でまとまった時間を確保

林:Twitterについていろいろお話ししましたが、やはり人から直接話を聞き、情報交換するのももちろん重要ですよ。夜はなるべく人と会うようにして、リアルな情報交換をするように心掛けています。

――情報収集や取材のために人と会ったり、またそのための移動も考えると、時間の確保・管理が大切だと思います。林さんは何か工夫されていますか?

林:私は「Google カレンダー」で予定を管理しています。工夫と言えば、原稿の執筆などでまとまった時間を確保したいときは、「ここには予定を入れない」という予定を入れるようにしていますね。また、集中したいときはメールのチェック頻度を下げています。

――どなたかと共同作業をする際に利用されるツールはありますか?

林:相手のITリテラシーにもよりますが、グループウェアでは「Basecamp」というサービスを使うことが多いですね。Wikiのような機能も備えており、マイルストーンを決めてそこを期限にアイデアを練ったり、お互いの状況を確認したりしています。

米37signalsが提供しているグループウェア「Basecamp」。英語かつ有料(月額$24~)ですが、企画や執筆などのクリエイティブな作業に適したサービスとして日本でも知られています

▼Basecamp

作業拠点は「六本木ライブラリー」を活用

――取材・講演・執筆と目まぐるしい毎日を送っていると、落ち着いて作業できる場所も大事になってくると思います。林さんは作業場所の確保をどのようにされているのでしょうか?

林:もちろん自宅で作業することもあるのですが、多くはこの六本木ライブラリー(アカデミーヒルズ)を拠点にしています。タクシーなら都内各所へのアクセスもよいですし、海外の最新の業界誌もそろっているので、情報収集にも役立つスペースですよ。


六本木ヒルズの49階にある六本木ライブラリーには、日本の新刊書籍から海外の業界紙まで多数の蔵書があります。「気分転換をしたいときは、階上にある森美術館がピッタリですよ」と林さん
六本木ライブラリーは会員制の施設(入会金10,500円、月額会費9,450円)。デスクワークや打ち合わせに利用できるカフェがあり、無線LANと電源も利用できます

▼六本木ライブラリー
▼六本木ライブラリー メンバーズトーク(林さんのインタビュー記事)

――林さんの場合、今回は取材される立場ですが、ご自身が取材する立場になることもありますよね。取材に欠かせない道具はありますか?

林:基本はMacBook AirとiPhone、あとはデジカメを持って行きますね。取材時の会話をメモするときには、Microsoft Office:mac2008のWordを使っています。

――そういうときはテキストエディターを使うものかと思っていましたが......ちょっと意外ですね。

林:MacのWordには、取材などで役立つ便利な機能が搭載されています。MacBook Airのマイクで録音しながらWordでメモを取っていくと、あとで会話を再生するときに、そのときに入力した文字がハイライト表示されるんです。

――原稿をまとめるのがかなり楽になりそうですね。

林:あとは「Eye-Fi」が面白いですよ。これはSDカード型のWi-Fi(無線LAN)カードで、デジカメにセットして写真を撮れば、Flickrなどの写真サイトに自動的にアップロードされます。もちろん無線LANからインターネットに接続できる環境が必要ですが、カードを抜いてケーブルでつないで......という手間がないので重宝しています。

Microsoft Office:mac2008のWordで、録音しながらメモを取っている状態。Windowsでは、この機能は「Microsoft Office OneNote 2007」という単体のソフトとして提供されています

▼Microsoft Office OneNote 2007
SDカード型の無線LANカード「Eye-Fi」。デジカメで撮った写真をパソコンやオンラインアルバムへ自動的に保存できます

▼Eye-Fi Japan

発言のねつ造、匿名書き込み......ネットとどう付き合うか

 2009年3月、林さんがご自身のブログで書かれた記事「マスコミもブログも、兜の緒を締める頃合い!?」が、ネットでさまざまな話題を集めました。

林さんのブログ「nobilog2」の記事。多数のコメントが寄せられているほか、ソーシャルブックマークなどでもさまざまな議論が交わされています

▼nobilog2「マスコミもブログも、兜の緒を締める頃合い!?」

 詳細は林さんのブログをご参照いただくとして、この一件には2つの側面があります。1つは、「自分の発言ではない文章があたかもそのように扱われ、ネット上の記事を通して世界中に知れ渡ってしまう時代とどう向き合うのか」という点。もう1つは、林さんがその記事内で言及した「"日本の匿名書き込みの文化が嫌いだ"という発言に対する反応」です。

――林さんの発言がねつ造された記事は、米「Wired.com」の記者が書いたものでした。その事件に触れる中で、林さんは日本における匿名書き込みの文化についてのご意見を展開されています。ちょっと意外な印象を受けたのですが、そこにはどのような思いがあったのでしょうか?

林:あの一件は、私が常日ごろ感じていたネットとメディアの問題意識をかなり刺激するものでした。単独ではなかなか記事にできなかった匿名掲示板についても、この際だから意見表明をしておこう、という流れで書いたものです。

――その後、ブログのコメント欄や「はてなブックマーク※1」で展開された議論も興味深いものでした。ほかのネットユーザーも、この件については普段からさまざまな意見を持っていたようです。林さんの記事は、それを表に出すためのよいきっかけになったとも言えますね。

林:Twitterでのコミュニケーションもそうですが、ネット上では自身の立場を自身の意見として、きちんと表明していく姿勢が大事だと思います。たとえネット上での攻撃にさらされたとしても、匿名ではない「自分」の言葉で答えていくと、必ず賛同してくれる人が現れます。泣き寝入りをしないことが大事です。


 ご自身のブログでは匿名掲示板に対する明確な意志表明をされた林さんですが、このインタビューの最後では、「結局は自分の肌に合う環境でネットに接していくのがあるべき姿」とまとめられていました。

 Twitterに象徴されるような便利なコミュニケーションツールが生まれる一方で、ネット上での意見の対立によるトラブルに巻き込まれるリスクも高まっています。しかし、そこから逃げずに向き合っていくことが、最終的にはその問題を解決するもっとも有効な手段になると感じました。仕事術を超えた林さんの「ネット観」を伺えたことで、ネット上のツールを使ううえで心にとどめておくべきポイントも学ぶことができたインタビューでした。

※1:はてなブックマーク
日本最大級のソーシャルブックマークサービス。Web上でブックマークを共有するとともに、ブックマークした記事に対するコメントでほかのユーザーとコミュニケーションできる。
詳しい使い方はこちら:はてなブックマーク 使い方解説一覧 - できるネット+(できるネットプラス)