イー・モバイルが2009年11月18日に発売した「Pocket WiFi(D25HW)」のレビューです。前編では、基本的な操作と接続・切断の扱いについて見ていきました。今回は実際に利用しながら駆動時間や通信速度などをチェックしていきます。
扱いやすさと共に、気になるのがバッテリー駆動時間です。公称では「約4時間」となっていますが、実際にはその7割前後というのがモバイルデバイスのバッテリー駆動時間の常識。とはいえ駆動パーツも特にないPocket WiFiの場合は、どうなるのでしょうか?
フル充電の状態から起動し、パソコンとiPhoneを接続して数分に1階は何かしらの信号を送り、接続が切れない状態を保ちながら5分に1回ずつ、機器の動作を確認していきました。すると、スタートから2時間5分経過時に、すでにバッテリーが1目盛となってしまいました(最大時は4目盛)。
やはり4時間は難しいのか? と思ったのですが、ここから粘ります。0目盛になったのは起動から3時間35分後。その後も動作し続け、5時間10分後に「Low Battery」という表示が出ました。この状態ではバッテリー表示が点滅し、画面が消えなくなります。早めに作業を終えるなり充電するなりせよ、ということでしょう。結局、完全に電源が落ちたのは5時間22分後から25分後の間(切れた瞬間を見逃してしまいました......)。公称値よりも1時間半近くも長く持ちました。
ここ1年ぐらいでは長時間駆動可能なノートパソコンも増えていますが、それ以前の機種であれば2〜4時間駆動が普通でしょう。そうしたノートパソコンとの組み合わせならば、余裕でパソコン側のバッテリーが切れるまで使えることになります。
長時間利用する場合には、付属のACアダプターかパソコンからのUSBケーブルによる給電/充電を行うことになります。このとき、ACアダプター接続時は、充電しながらの動作となります。一方、USB接続時は、3G回線に接続中は給電(USBから供給された電力をそのまま利用)、3G回線に接続していないときには充電となります。
USB接続時は無線LANルーターとしての利用と、USB接続の従来型のモデムとしてとの利用の2通りの使い方ができますが、どちらの場合にも給電/充電の動作は同じです。
長時間の連続動作では発熱が心配ですが、Pocket WiFiの発熱は、気になるほどのレベルではありません。2時間ほど動かしたものを手で触っても少し「あたたかい」程度。ワイシャツの胸ポケットに入れていても、意識すればあたたかさを感じる程度で、危険な熱さにはなりません。
パソコンやiPod touch以外にも無線LANに対応したデバイスは数多くあります。そうしたデバイスでもPocket WiFiを利用してみました。
まず最初に試したのは、無線LAN対応で撮影した写真を自動的にアップロードできるSDカード「Eye-Fi Share」です。設定ツールでPocket WiFiをアクセスポイントとして登録することで、特に問題なく利用できるようになります。
イー・モバイルのアクセスエリアが限られるためオールラウンドに使えるわけではありませんが、何枚か撮影したところでPocket WiFiを起動し、無線LAN接続した状態で撮り続けることで、どんどん自動的に写真がアップロードされるようになり、なかなかに楽しい経験ができます。
ただ、Pocket WiFiはHSUPA(アップロードが最大5.8Mbpsになる高速上り回線)に対応しているとはいえ、数MBの写真を次々とアップロードするというわけにはいきません。いくらかのタイムラグを覚悟するか、カメラ側の設定でファイルサイズを落とす(記録画素数を下げるなど)などの工夫をするといいでしょう。
もうひとつ、同じネットワーク上にあるiPhoneまたはiPod touchとパソコンの間で利用できるアプリケーションを試してみました。最初に試したのは、iPhone/iPod touchをパソコンのiTunesのリモコンにできる「Remote」というアプリです。
試してみると、エラーになって利用できませんでした。これについてイー・モバイルに教えていただいたところ、Pocket WiFiに接続した機器どうしの通信を遮断する「プライバシーセパレータ」が初期状態で有効になっているためとのこと。設定ツールからこれを無効にすることで、利用できるようになりました。
「革命」と言うのが適切かどうかはわかりませんが、データ通信カード(パソコン1台のみと接続)からモバイル無線LANルーター(パソコン以外の多様なデバイスに対応&複数接続か)へ、というのはモバイル通信機器の順当な進化形だと捉えていいと考えます。
モバイル無線LANルーターは、これまでにもいくつかの製品が登場していました。ウィルコムのPHS網に対応した「どこでもWi-Fi」、イー・モバイルのデータ通信カードを挿入して無線LANルーター化する「PHS300」などです。そうした中でPocket WiFiは、イー・モバイルの3G回線が使える高速性と(高速なわりに)低料金である点、そしてコンパクトさや扱いやすさの面で先行製品よりも優れており、決定版と言ってよいと思います。
ライバルとして気になるのはNTTBPの「Personal WiFi Router(発売未定)」です。Pocket WiFiの弱点はイー・モバイルのサービスエリアがまだ十分でないこと、混雑する地域では速度低下や接続困難が懸念されることで、その点においてNTTグループの回線網をフルに利用できる「Personal WiFi Router」は非常に優秀そうです。
とはいえ、すでに発売されていて今すぐ使える点、そしておそらくPocket WiFiの方が低料金で利用できるであろう点を考えれば、やはりPocket WiFiは決定版と言ってよいでしょう。想定している主な利用場所に関して、サービスエリアと速度の点で問題がなければ。
最後にPocket WiFiのプランについて。代表的な料金プランとしては、以下の3つが挙げられます。
プラン/長期契約割引名 | 初期費用 | 月額料金 |
スーパーライトデータプラン にねんM | 5980円 | 1400〜5380円 |
スーパーライトデータプラン 新にねん | 15580円 | 1000〜4980円 |
データプラン にねんM | 5980円 | 4980円固定 |
※これ以外に契約事務手数料(2835円)やユニバーサルサービス料(月額8.4円)がかかります
「スーパーライトデータプラン」は、初期費用15580円を一括で支払うか(新にねん)、毎月500円ずつ分割払いにするか(にねんM)によって2通り。毎月上限を超えて利用するなら、この毎月の500円がなくなる「データプラン にねんM」が最もお得です。
この他に、月300MBまでの利用なら割安になる「バリューデータプラン」、月1GBまでの利用が割安になる「ギガデータプラン」もあります。
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この「革命」というフレーズは、実のところやや食傷気味の感があります。イー・モバイルでは2007年の同社サービス開始時にも「モバイル通信にもブロードバンド革命を」というキャッチコピーを使っていました。また、2008年から同社のデータ通信カードとネットブックを組み合わせた「100円パソコン」が「革命的」と評されたこともあります。
今度のPocket WiFiは、どのような点に「革命」をもたらすデバイスなのでしょうか? 少なくとも執筆時点ではネットブック+Pocket WiFiが100円で売られている、ということはないようですが、某量販店にて、iPod touch(8GB)+Pocket WiFiが1000円というのを見てしまいました。うーん、これは新手の「革命」です......。
販売方法はさておき、Pocket WiFiで新しく何ができるのか――機能面で革命的な点を見ていきましょう。
従来のデータ通信カードはパソコンに挿入して使用するのに対し、Pocket WiFiは無線LANルーターなので、iPod touchや各種ゲーム機など、無線LANに対応したパソコン以外のデバイスも接続できます。また同時に5台までのデバイスが接続可能が可能なため、ちょっとしたセミナーやオフ会のような場で、皆にネット環境を提供できます。
Windows Mobileスマートフォンを無線LANルーター化できる「WMWifiRouter」というソフトを紹介したこともありましたが、Pocket WiFiは無線LANルーター専用機なので、よりハイレベルな扱いやすさを期待したいところです。
細かい話としては、通信モードの違いもあります。WMWiRouterは「アドホックモード」という、一般的な無線LANルーターとは異なるモードでの動作となり、ゲーム機などが接続できませんでした。対して、Pocket WiFiは「インフラストラクチャモード」という一般的な無線LANルーターと同じ通信モードで動作します。
「Pocket」と付くように、Pocket WiFiは非常にコンパクトです。約99.5×46.6mm×14.1mmというのは、一般的な名刺入れよりも一回り小さい程度。そのかわりに約80gという重さは、「意外と重いな」という印象になると思います。
この80gの半分程度は、バッテリーが占めています。公称約4時間という長時間駆動を支えるるために必要な重さだと言えます。
Pocket WiFiのつくりはごくシンプルで、本体には電源、WiFi/WPS(無線LAN)、CONNECT(イー・モバイルの3G回線への接続)の3つのボタンしか付いていません。そして購入直後の設定では、電源を入れて(電源ボタン約2秒押し)起動が完了すると、順次無線LANと3G回線が自動的にオンになり、利用できるようになります。
ここまでは非常に簡単なのですが、無線LANと3G回線の切断方法が、意外と分かりにくいです(単純に、利用後は電源ボタンを約2秒押しして電源を切ってしまうなら簡単でいいのですが)。
無線LANを切断するにはWiFi/WPSボタンを約2秒以上押します。3G回線を切断するにはCONNECTボタンを約5秒以上押して、3G回線の接続を手動制御する「マニュアルモード」に切り替え、さらに約2秒長押しする必要があります。
このように、1つのボタンに時間の違う長押しによる複数の機能が割り当てられているのと、画面表示が10秒ほどで自動的に消えてしまうのとで、操作に慣れないうちは「まごまごしているうちに画面が消えてしまった」という印象になりがちです。
そして、うっかりWiFi/WPSボタンを長押ししすぎる(約5秒以上)とWPS(無線LAN接続を簡単に行うための機能)が起動するなど、想定外の操作をしてしまい、混乱してしまうことがたびたびありました。状態を確認しながら、慎重な操作を心がけるようにした方がいいでしょう。なお、短く押した場合は画面表示がされるだけとなります。
パソコン等の無線LAN対応機器を購入直後の設定のPocket WiFiに接続するには、Pocket WiFiの無線LANをオンにした状態で機器側からPocket WiFiのSSID(アクセスポイント名)を選んで接続し、5ケタのWEPキーを入力するだけです。
認証方式はWEPによるOpen systemとShared keyの自動切り替えです。Pocket WiFiに興味を持っている方の多くはパソコンのほか、iPod touchやゲーム機など複数のデバイスを持ち歩く機会が多い方だと思いますが、いずれのデバイスからも簡単に設定が行えます(ただし、先述したような画面表示と操作の混乱にご注意を)。
「AOSSしか使ったことがない」という方には若干難しいかもしれませんが、公衆無線LANなどで、手動の無線LAN接続をした経験のある方なら、スムーズに接続設定を完了できるでしょう。
少し慣れてしまえば、Pocket WiFiの利用は非常にスムーズになります。しばらくの試行錯誤の結果、私の利用スタイルは次のような形になりました。
電源は常に入れっぱなしで、3G回線の接続はオートモード(自動的に3G回線に接続する)にしておき、利用時に無線LANをオンにします。喫茶店では荷物を置いて、コーヒーとパソコンの配置を整えながらWiFi/WPSボタンを押す感じです。無線LANの起動直後にパソコンを起動すれば、自動的にPocket WiFiを探して接続し、「さて何から始めようかな......」と数秒ほど考えている間に自動ダイヤル接続も完了します。
これで、準備開始から実際に利用できる所要時間は、自分がスムーズに動ければ5秒前後といったところ。Pocket WiFiやパソコンよりも人間の動作の方が遅いので「接続を待つ」という時間はいっさいありません。
作業終了時にはPocket WiFiを何も操作する必要はなく、パソコン等を片付けて立ち去るだけです。実は、購入直後の設定では10分間通信がなければ自動的に無線LANと3G回線が切れるようになっているので、放っておいてもいいのです。
バッテリーを節約するためには、使用時に電源を入れ、終了時に電源を切るようにした方がいいです。しかし、電源を入れてから起動が完了するまでには20秒ほどかかります。バッテリー駆動時間については後編で詳しく触れますが、Pocket WiFiのバッテリーは約4時間持ちますから、よほどシビアに電源を節約したい場合以外は、多少の電源消費があっても上記のような使い方の方が快適でいいと思います。
こうした使い方で、どこでもすぐ作業に入ることができ、また退去時に時間を取られなくていいというのは、その数秒間を短縮する効果以上に、心理面での気持ちよさ・快適さがあります。先述のWMWiFiRouterと比べて圧倒的な扱いやすさで、これは、なかなかに革命的です。
購入直後の設定のPocket WiFiは、手軽に設定できるのは便利であるものの、安心できるセキュリティとは言い難い状態です。
そこで、パソコンから設定ツールを利用することで、WPA/WPA2などの高度な暗号化や、MACアドレスによるフィルタリングなどの設定が可能です。また、購入直後はSSIDにPocket WiFiだと丸わかりのものが付けられているので、こちらも変更しておくのが望ましいです。また、無線LANと3G回線の自動切断の設定などもできます。
前半はここまで。モバイルデバイスは手狭な場所で、時間もない中での利用となる場合が多いため、すぐに使えて撤収も簡単である、という扱いやすさは非常に心強いです。後編では、実際に利用しながら駆動時間や通信速度などをチェックしていきます。