Windows 7の発売に合わせて、各PCメーカーから新機種が発売になります。新しいOSに対応し、どのような新機能、新要素が盛り込まれるのでしょうか。
現在3、4年ぶりぐらいにPCを買い換えるため情報を集めている、という方も多いのではないかと予想されます。3年ほどの間でPCはどのように進化し、どのような新しい体験ができるのか、各メーカーに話を聞きに行きました。第1回はソニーの薄型・軽量モバイルノート「VAIO Xシリーズ」です。
「VAIO type P」に続き、インパクトのある新機種が登場
ソニーのVAIOシリーズは、Windows 7を搭載した2009年冬モデルでラインナップが一新され、型名も「VAIO type P」から「VAIO P」のように変更になります(以降、明確に旧モデルを指す場合は「VAIO type P」、それ以外は「VAIO P」のように表記します)。
そのラインナップの中から、今回は「VAIO X」に注目しました。B5サイズの薄型ノートというジャンルに位置する製品ですが、そのボディは最厚部でたったの13.9mm。重量は最軽量構成で655gという、今までにない薄さ、軽さを誇るマシンとなっています。
VAIO X設計リーダー
ソニー VAIO事業本部 第1事業部 1部 1課 統括課長
林薫氏
これまでにVAIO Z、SZ、Gなどを担当してきたとのこと
目指したのは「紙のノートのように携帯できる身近な存在」
ソニーでは、2009年年頭に大きなインパクトを与えた小型モバイルPC「VAIO type P」を発売したばかり。「VAIO X」はこの「VAIO type P」と同じ「Atom Z」シリーズというプロセッサを搭載しており、性能的には大きな違いがあるようには感じられません。
しかし、「ポケットスタイルPC」と呼ばれ、奥行きが短く細長い形状をしていた「VAIO type P」に対して、「VAIO X」は278mm×185mmとほぼB5サイズ。そして「VAIO type P」の厚みが19.8mmであるのに対し、「VAIO X」は5.9mmも薄い13.9mmです。スペック上は似ていながらも、この薄さを実現するために、中身はほとんど別物となっています。
VAIO Xの開発にあたって、設計リーダーの林氏は「小型で低消費電力性に優れたプロセッサのAtom Z、高速・低消費電力のHDDに替わる記憶装置としてSSDが登場し、そして、レスポンスの向上に配慮がされたWindows 7が出るというこのタイミングで、現在の我々が持つ技術をフルに使った究極のモバイルノートを作ってみたい、という思いがありました」と言います。
これまでに林氏が設計してきた小型・堅牢を売りとしたビジネス向けノートPC「VAIO type G」と同等の堅牢さを維持しつつ、より薄く、軽く、もう少しカジュアルに、幅広い用途で使えるマシン。そして「本物の紙のノートのように」いつも持ち歩くことが苦にならない製品を目指して開発されました。
もちろん、処理能力に関しても自信を持っています。これまでの「VAIO type P」にあった「動作が遅い」という声に対しては、「ハイパフォーマンスのAtom Z(『VAIO X』の店頭モデルではAtom Z540 1.86GBを搭載。『VAIO P』の店頭モデルはAtom Z520 1.33GHz)とSSDの搭載(店頭モデルでもSSDを搭載し、HDD搭載モデルはない)とWindows 7の搭載によって、十分なパフォーマンスが得られています(林氏)」。
PCで仕事をする人のための、妥協のないスペック
「『VAIO P』は、新しいコンセプトで作られていて、ユーザーの皆様に新しい使い方を探してください、というアプローチをしていた部分がありました。一方で『VAIO X』は、PCでやるべき仕事を抱えた人が、気持ちよく仕事をしていただけるように、従来の使い方をこの小さなボディの中でしっかりとこなせるようにと考えたPCです」と、林氏は両機種の違いについて説明します。
これだけの薄さでありながら、宿泊先などでの利用やプレゼンテーションでの利用を考えて、有線LANと外部ディスプレイ出力端子を本体に備えています。「VAIO P」では、この2つの端子はオプションでした。
液晶ディスプレイ除くと、本体の厚みはわずか9.6mm。有線LAN端子と外部ディスプレイ端子は、それぞれ特注品となっています
端子の部品はいずれも「VAIO X」のために特注したもの。「内部に使っているソケットなども含め、この薄さを実現するために、インターフェースのほとんどが特注品となっています。手間もコストもかなりかかってしまったのですが、当初からこの2つ(有線LANと外部ディスプレイ)を省くという考えはありませんでした(林氏)」。
この薄さを実現するために、内部基板の片面だけに部品を配置する「片面実装」という方式を採用。両面実装よりも設計の難度が格段に高く、林氏いわく「単なる配線の難しさだけでなく、見えないノウハウが満載なので、たとえ他社がこれを見たとしてもコピーするのは不可能でしょう」とのこと。
手際よく分解しながら内部の説明をしてくれる林氏。設計段階から工場のエンジニアと会話し、設計したパーツが実際に組み立て可能か、どのような形状がベストかなどを検討しながら進めたそうです
ディスプレイには「VAIO Z」などと同等の色再現性があるという11.1型ワイド液晶(1366×768ピクセル)を備え、キーボードは「VAIO P」よりも広いキーピッチを確保しています。「軽さ、薄さを追求しつつも、使い勝手を犠牲にしない、気持ちよく使ってもらえるものを目指しました(林氏)」。
小型ながら17mmのキーピッチ(VAIO Pは16.5mm)を確保し、タッチパッドやパームレストもしっかりとしたものを搭載。パームレストの手前にはSDカードとメモリースティックDuoのスロットがあります
Lバッテリーでもサイズは変わらず約10時間駆動
「VAIO X」の目を引くポイントは、薄さ、軽さだけではありません。バッテリー駆動時間はSバッテリーで約4~5時間、Lバッテリーなら8.5~10時間。この2つのバッテリーは形状が同じで、Lバッテリーを装着しても出っ張りなどは発生しません。Lバッテリーを利用すれば実質的にも7時間程度の駆動時間が期待できるといい、「1日中持ち歩いて利用する」ことが可能になります。
さらに大きな「Xバッテリー」も用意されており、こちらは約17.5~20.5時間の駆動が可能。「約1kgで20時間動作を謳うノートPCは業界初」とのことで、海外出張で10時間以上飛行機に乗る場合でも、余裕を持って使い続けることが可能になります。
SバッテリーとLバッテリー(写真下)はサイズが同じ。Xバッテリー(写真上)は本体底面全体をカバーします
バッテリーは「VAIO X」のパームレスト部に配置され、バッテリーを取り外すとパームレストには0.6mm厚のアルミ板しかない状態になります。「バッテリーを装着した初めて状態で十分な剛性が得られるようになっているので、バッテリーを装着した状態で出荷します(林氏)」。薄く、軽く、そして堅牢なマシンを目指し、徹底的に作り込まれていることが、このような点からも伺えます。
林氏いわく「世界一カッコいい大容量バッテリー」を目指したというXバッテリー。本体奥と接合するためのロックダイヤルにはアルミ削り出しのパーツを使うなど、細かなこだわりも
Xバッテリーを搭載した「VAIO X」を横から見たところ。本体の放熱を考慮したこの形状は「サーマルディフューズ機構」と命名されています
大きく進歩した「持って行くことを悩まない」PC
3年ぶりぐらいにパソコンを買い換えるユーザーにとって、「VAIO X」はどのようなマシンになるかを伺いました。約3年前といえば、ソニーでは「VAIO type G」の最初のモデルが発売になった時期です。
「薄くて軽いことが、やはり大きな変化です。これで『PCを持ち歩く』ことの抵抗感が取り払われます。ノートPCが必要かどうか分からない出張の準備をしているときなどでも、持って行くかどうかを悩まずに、いつでもカバンに入れておき、使っていただけると思います(林氏)」。
小型・軽量のノートPCはちょっとマニアックなもの、小ささのかわりに犠牲になる部分も多いものという印象があり、敬遠している方も多いでしょう。ところが、この「VAIO X」は、ビジネスマンや学生など、日常的にPCを利用する一般の人を対象に「これまでよりも軽く、小さいPCで同じ作業ができる」ことをコンセプトとしています。「ノートPCは重いから/大きいから/バッテリーがあまり持たないから、持ち歩かない」と考えていた方にも、持ち歩き用に検討してほしい魅力的なPCです。
なお「VAIO X」の「X」は、2003~2004年に発売になり人気となったモバイルPC「バイオノート505エクストリーム(X505)」へのオマージュとしての意味があるそうです。熱心なモバイルユーザーにとっても、気になる存在です。