ユーザーによる商品紹介に早くから着目
Amazon(米Amazon.com)は、書籍を中心とした商品を取り扱うオンラインストアとして世界的に知られています。一方で、クラウドコンピューティングの老舗的な存在でもあります。
Amazonには、一般的な小売店の「自分たちが商品を売る」という発想とは違い、「ユーザーに商品を売ってもらう」という発想が早い段階からありました。日本のAmazon(Amazon.co.jp)を利用すると、商品ページに「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と表示されますが、こうしたユーザーの購買行動を元にしたレコメンド機能が充実しているのは、Amazonの大きな特徴の1つです。
また、ユーザーのサイトやブログで商品を紹介してもらい、Amazonで商品が売れたら売上の一部をそのユーザーに還元するアフィリエイトプログラム「Amazon アソシエイト」を、アフィリエイトがブームになるずっと前の1996年から開始しています。
PaaS、IaaSの老舗として多数のサービスを提供
そして2002年、Amazonはユーザーが作成する商品紹介サイトとの協力をさらに進めるため、「Amazon Web Services」(以下AWS)という開発者向けサービスを開始しました。
AWSはAmazonのプラットフォームやインフラストラクチャをユーザーに提供し、商品検索機能などを利用した高度な商品紹介サイトを作ることを支援します。これらはレッスン4で紹介したPaaSおよびIaaSと同じアプローチです。
2010年1月現在では、AWSにはコンピューターの処理能力を提供する「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」、ストレージサービス「Amazon Simple Storage Service(S3)」のほか、データベースサービス「Amazon SimpleDB」、「Amazon RelationalDatabase Service(RDS)」、メッセージングサービス「AmazonSimple Queue Service」などがあります。そしてAmazon の販売増につながるものに限らず、さまざまなWebサービスのバックエンド、さらには個人的な用途のストレージやデータベースとして利用できる形で有料提供されています。
▼Amazon Web Services(英語)
http://aws.amazon.com/
●Amazon Web Servicesの利用イメージ
海外ベンチャーを中心に豊富な実践例がある
Twitter、Dropbox、Evernoteが、いずれも何らかの形でAWSを利用していることは、各サービスのレッスンで述べました。AWSはこれらの事例のように、海外のITベンチャーがサービスを開発・運営する際、投資を節約する手段として大いに役立っています。
また、それら以外の業種でも、日常業務で使うサーバーとして、一時的に大きな処理能力を必要とするプロジェクトのサーバーとしてなど、さまざまな用途で利用されています。
日本でのパフォーマンス向上に期待
一方、日本国内の利用事例は、あまり多くありません。代表的な事例としては、学びing株式会社の検定作成サービス「けんてーごっこ」が、Amazon EC2とAmazon S3で運用されていることが知られています。
日本での普及が進んでいない原因の1つには、日本からアクセスするとAWSが意外と「重い」ということがあります。現時点ではAWSのデータセンター(サーバーの設置拠点)は北米とヨーロッパだけに存在しており、日本からアクセスする際は遅延が起こるとして問題視されているのです。
この指摘に対し、Amazonは2010年上半期にはシンガポールに、下半期にはさらにアジアの別の場所にデータセンターを開設するとしています。サーバーが物理的に近くなり、日本からのアクセスが「軽く」なることで、今後は日本での活用事例も増えていくかもしれません。
▼けんてーごっこ
http://kentei.cc/
[ヒント]製薬会社の研究施設が速やかな環境構築のために利用
アメリカのEli Lilly(イーライリリー)社は、世界中に大規模な研究開発施設を持つことで知られる製薬会社です。同社は2008年4月より研究部門でAWSの利用を開始し、データ分析などのアプリケーションをクラウドのサーバーで運用するようにしています。これによって、新しいサーバーを構築するための作業は7.5週間から3 分に、新しいコラボレーション環境の構築も8週間から5分にと大幅に短縮し、その時間を研究開発に当てられるようになったと発表しています。このような現場では、プロジェクトの必要に応じて大規模なコンピューティング・リソースを利用したり手放したりすることが容易なサービスとして、AWSが活用されています。
[ヒント]日本国内でも増えつつあるAWS活用事例
日本国内でのAWS活用事例は多くないものの、確実に増える傾向にあります。レッスン11で紹介した携帯電話からTwitterを利用するためのサービス「モバツイッター」は、藤川真一氏が個人で運営するサービスですが、Twitterの人気が高まるにつれアクセス数が急増。2009年6月より、それまでの自宅内のサーバーによる運営からAmazon EC2に移転しました。また、2009年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のサイトを開発したイーストは、発表時期にのみ集中的なアクセスがあるという同サイトの特性に対応するため、Amazon EC2を採用したことを発表しています。