こんにちは、できる編集部の井上薫です。めっきり寒くなり、おかげで「会社へ行きたくない」という気持ちが倍増しています。まだまだ、メンタル余裕への道のりは遠い...ということで、今回も住職であり精神科医の川野泰周さんに登場していただきます。

前回は「マインドフルネスとは、今ここに集中すること」と教えていただきましたが、なぜ「今ここに集中する」ことが、私たちの心を整え怒りや不安を手放せるのでしょうか?

引き続き川野さんに、精神科医から見たマインドフルネスの効能を教えていただきます。

医学的にも証明! マインドフルネスの効能とは

―― 第1回では八支正道の「正念」、「今この瞬間に、価値判断をすることなく注意を向ける」こと、「今ここに集中すること」がマインドフルネスだということでした。素朴な疑問なのですが、これはどうして心に良いのでしょうか?

川野 近年、心理学者や脳科学者たちがマインドフルネスを研究し、私たちの心を整える効果があるというエビデンスが紹介されています。そして、過去や未来に思考が行ったり来たりすると脳は疲労することが証明されました。

「(過去を思い出して)理不尽なこと言われてイライラ!」
「(未来を考えて)こんな働いても報われない~!」

―― 脳内の思考が、過去や未来を走り回っている感じですね......。絶対疲れる。脳を休ませてあげたい。

川野 その状態が常に続くと、幸せであると感じる力、つまり「幸せセンサー」が働きにくくなることも分かってきたのです。

そこでマインドフルネスの出番です。目の前のことだけに集中すると、脳は過去や未来を走り回らなくてすみますよね。今ここに集中することで、脳は休息できるのです。

川野 マインドフルネスでは瞑想を実践して、今に集中するトレーニングをします。次回に詳しく実践方法を紹介しますが、マインドフルネス瞑想の基本である「呼吸瞑想」では、ただただ呼吸に集中することを勧めています。

―― マインドフルネスを実践すると、ほかにどんな効能がありますか?

川野 疾病治療の観点からは、うつ病や不安障害など、さまざまな精神・身体疾患に対する効果が証明されています。一方、健康状態の人に対しても以下の効果があるんです。

  1. 集中力・注意力の向上
  2. ストレス耐性の強化
  3. 創造性の増大
  4. 他者への思いやりと共感性

―― スゴイ! 欧米でエリートビジネスマンにマインドフルネスが人気な理由が分かります。

川野 欧米では1~3番目の能力開発系の効果が注目されているのですが、私は4番目の「他者への思いやりと共感性」を最も強調したいです。

「あんな風になりたい」とか「こんな能力がほしい」といった、目的のためにマインドフルネスに取り組むという段階を超えたとき、自分も他者もすべてを受け入れられ、慈しむことができます。

その境地に達したとき、多くの悩みは「すでに悩みではなくなっている」ということに気付くはずです。

―― すべてを受け入れるって禅ですね。川野さんはその境地に達しているんですか? ま、まぶしい......。

川野 いえ、まだまだ修行中です(笑)。

皆さまにも禅の源流を意識した「日本のマインドフルネス」として心に落とし込んでいただくことで、真のマインドフルネスを体現していただきたいです。

次回予告
マインドフルネス瞑想の基本となる「呼吸瞑想」を実践!

川野泰周(かわのたいしゅう)さん
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業後、精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行、2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で、うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療にあたっている。