こんにちは、できるネット+編集部の小林です。2009年末に、まつもとあつしさん(a_matsumoto)による「Twitterでフォロワー1000人できるかな?」企画をお送りしました。Twitterを楽しむために、ひとつの目標として「フォロワー1000人」を設定し、みごとに予定よりも短い期間でクリアすることができました。


まつもとさんと、愛用のiPad(当サイト「iPadとは何者なのか?」でも紹介)。ポータブルWi-Fiと組み合わせて活用中

 その後、Twitterを取り巻く状況は短期間でめまぐるしく変わり続けていき、熱狂的なブームは、やや落ち着いた感があります。リツイートやハッシュタグのような仕組みが広く使われるようになり、フォロワーが多い/少ないことによる違いは、以前よりは小さくなったと考えられます。

 そうした中で、今回は視点を変え、編集部からまつもとさんへのインタビューという形で、「フォロワー1000人」企画後もTwitterを続けている中で感じている意義や、ブームとしてではない、日常としてのTwitterからどのような世界が見えてくるのか、といった話を伺います。


「ログのまとめられかた」が、自分の発言を考えるきっかけに

――よろしくお願いします。とりあえずはフォロワー数の話から(笑)。すでに3000フォロワーを超えましたね。この半年ほどでのTwitterをめぐる変化としては、どのようなことを感じますか?

自分の発言の重みを、以前よりも意識するようになりました。正直な話、「フォロワー1000人」を達成した段階では、発言の重みについて考えることはありませんでした。その後、4月頃からASCII.jpで連載記事を書かせていただいて、そちらから私を知ってフォローしてくださる人が増えた頃からですね。


現在、まつもとさんはASCII.jpで「まつもとあつしの『メディア維新を行く』」(隔週)、「動画サイトってどうなの? 儲かるの?」(不定期)という2本の連載記事を執筆しています

フォロワーが増えて、林信行さんのインタビューで伺った「リアルタイム検索エンジン」(Twitterのフォロワーからの反応があたかも検索結果のように得られること)を体験できるようになり楽しんでいたのですが、その頃のツイートの内容は、まだ独り言に近い感覚でした。ですが、ASCII.jpでの連載が数回続いた頃から、ツイートに対して意見や反応をいただくことが多くなり、多くの人に読まれることを考慮した、慎重な発言を意識するようになりました。

私はアニメ関係の仕事にも携わっていたことがあり、アニメ好きでもあるのですが、現在のフォロワーの多くにはいわゆるオタクっぽい発言を期待されてはいないと思うので、そうした発言は控えたりもしています。コンテンツとしてのアニメや、アニメビジネスや、に関するツイートはしていますね。

――まつもとさんのツイートを見ていて、ASCII.jpの連載が始まってしばらくした頃から、発言の方向性がかなり固定されてきたように感じていました。電子書籍やコンテンツビジネス関連のツイートが多くなって、言ってみれば「キャラ立ち」がしっかりとしてきたような。反応の変化は、そうしたことにも関連しているのかもしれませんね。

自分の発言の連続性や文脈を意識することは多くなっています。そのきっかけとしてはTogetter(トゥギャッター:Twitterのログをまとめるサービス)の存在が大きいですね。

自分のツイートが、Togetterのログまとめの中で思わぬ文脈に取り込まれ、おどろいた経験が何度かありました。そこから、ひとつひとつのツイートがどのように読まれるのか、自分ではコントロールできないので、「自分だけではなく、他のユーザーの発言の中でどう解釈されるか?」を想定した文章を考えるようになったと思います。

ツイートの文脈は自分でもコントロールできない

――具体的には、どのようなことがあったのですか?

京都国立近代美術館のTwitterアカウントが終了してしまった件のログまとめ(現在は消去されています。参考情報:ねとらぼ:「先進的な取り組みだったのに」――惜しまれつつ終了した京都国立近代美術館のTwitter - ITmedia News)を、ツイートをしていた中の人(京都国立近代美術館Twitterアカウントを運用していた人)に対する支持・不支持の意見は表明せず、ただ「このことはもっと読まれるべき」と紹介したことがありました。簡単にどちらかの意見でまとめられるものではないけれど、もっと知られ、議論されるべき問題だと考えたためです。

そうしたら、中の人を支持する趣旨のログまとめに加えられてしまって......。そのログまとめを読んだ人は、私は中の人を支持していると思うでしょうね。

また、私は祖父を太平洋戦争で亡くしていて、終戦記念日のころに祖父に関するツイートをしたことがありました。それは個人的な話のつもりだったのですが、他の人に反戦や政治に関するハッシュタグを付けてリツイートされて驚くことがありました。

※注:Togetterには自分のツイートを削除する機能が追加され、意に反してまとめられた中から自分のツイートを削除できるようになっています。自分のツイートを削除するには、対象のログまとめのページで[メニューを開く]-[つぶやきを削除する]をクリックします。

日本のソーシャルメディアはいびつな形?

――なるほど。個人的な話も別の文脈に入ると、受け取られかたがまったく変わってしまいますね。

その話から広げて考えると、今の日本のいわゆる「ソーシャルメディア」、コミュニケーションサービスは、いびつな形になってしまっている部分も見えてきそうです。例えばTogetterのように、Twitterのログを1本のストーリーにまとめて保存するサービスは、海外にはあまり例がないのではないでしょうか?

――そう言えば、ちょっと思い浮かびません。「いびつ」とは、どういうことでしょう?

Twitterでは、交わされたツイートがまとめられて長期間読まれることは、本来想定されていないのではないかと思います。おもしろいツイートがまとめられることのメリットもありますが、細切れのツイートが思わぬ文脈に編集されて困惑してしまうケースもあるわけです。

また、現在の日本では、ソーシャルメディアの中でTwitterの人気が突出していて、あらゆる形のコミュニケーションがTwitterで行われてしまっています。しかしTwitterには向かないコミュニケーションの形態もあり、そのあたりで、いびつさを感じることがあります。

今後は、限定的な少人数でのコミュニケーションに向いたサービスや、会話のつながりがわかりやすく、ユーザーが自分自身で文脈をコントロールできるサービスが求められるようになるのではないでしょうか。こうした用途には、Twitterはあまり向きません。オープン化を進めるmixiやFacebookのようなSNSが、そうした役割を担うようになるかもしれません。

――「Facebookが日本でも流行る」と以前からおっしゃっていたのは、そういうことなのですね。そう考えていくと、必然性が見えてきますね。


Twitterが英語を学ぶモチベーションのひとつに

ところで、1月から始められた「TOEIC800点攻略日記」企画のほうはどうですか?

実は先日、800点を超えて840点を取ることができました。あちらのブログにも書いたのですが、自分で自分を褒めてあげたいです(笑)。

まだ、書くことや話すことはあまり自信がないのですが、TOEICの勉強をしてから英語のニュースを読むことが以前よりも苦でなくなりました。そこで、気になる英語のニュースに日本語でコメントを付けてTwitterで紹介する、ということを始めています。


「フォロワー1000人」の最終回で予告していた、スペースアルクの「TOEIC800点攻略日記」で目標を達成。受験時にはTwitterで助けられるというエピソードもありました

フォロワーの皆さんに役立ててもらえるだけでなく、過去の自分のツイートを振り返ることで、一種のネタ帳として活用できます。どのようにリツイートされたかといった反応まで確認できるので、非常に重宝しますね。それに、こうして日常的に英語を活用する機会があることは、学ぶことの大きなモチベーションになっています。

――反応まで込みで見られるのはいいですね。「ソーシャルネタ帳」と言ったところでしょうか。日本のユーザーで、英語でのツイート用に別アカウントを持っている人も多いですが、英語でのツイートはしていないのですか?

それはしていません。英語を書く力を付けるには、TOEICとはまた違う勉強が必要かなと思っているところです。

今のところは、英語のニュースを日本語で紹介するだけですね。大きなメディアでは英語のニュースも半日ぐらいすると日本語訳が公開されますが、その半日の差を使って何かをしようというよりも、あまり日本ではまだ関心が薄いと見なされて翻訳されないニュースを読んで、その中から気になるものを紹介できることに、価値があると思っています。


アニメビジネスに関するツイートを、寄せられた反応を含めてTogetterでまとめた「Togetter - 「アニメビジネスについてざっくり」」。こうしたツイートや議論が、仕事にも役立つ機会が多くなっているとのことです


リアルタイムの反応を想定することで、他の場で記事を書くときの意識も変わる

――ネタ帳といえば、ASCII.jpの連載に関連して、Twitterで意見募集などもされていましたね。記事の反応がTwitterで寄せられることも多いと思います。

書いたものにTwitterで反応がもらえるというのは「フォロワー1000人」のときが最初でした。ただ記事を書いただけでは読者の反応を知ることができる機会はそう多くないので、Twitterは本当に貴重な存在です。

反応を得られるメディアとしては「はてなブックマーク」などもありますが、はてなブックマークは、基本的に私からコメントへの返信をすることは想定されていません。一方で、Twitterでいただく反応は私が読んだり、場合によっては返信することを想定されていることが多いので、「分かりやすく書く」ことへのモチベーションのアップにつながりやすいです。


――受け取る側としては、その違いは大きいですね。

そうですね。一方で、こちらとしても「書きっぱなし」にはできないなという意識になります。

このように反応が見えてくることで、自分の書いたものがどのように読まれているのかが、ある程度予測できるようになってきました。Twitter上でも、フォロワーがどのような属性で、どのようなツイートにどのような反応をしてくれるのか、といった具合に。

――そうなると、フォロワーの反応を意識してツイートの内容を考えることもありますか?

話題選びという意味ではありますが、受けることを意識して主張を変えるようなことはないですね。


連携サービスが増え、Twitterがそれらの起点に

――今後のTwitterは、どのようになっていくと思われますか?

国内では以前「Twitterクローン」と呼ばれる対抗サービスが多数提供されていましたが、最近ではTwitter連携サービスが増えていて、それらの起点としての存在感が増していますね。はてなブックマークがTwitterの連携機能を強化していたり、他でもライブドアの「ロケタッチ」など、関連するツイートを目にする機会が増えています。


2010年7月から開始された、ライブロアの位置情報連動サービス「ロケタッチ」。Twitterと連携して「タッチ」した場所を知らせることができ、「○○にタッチ」というツイートを目にする機会が増えています

一方で、Twitterの形式にはあまり合わない部分(文脈のコントロール、過去ログの保存など)については、もしかしたらmixiがすすめるオープンなプラットフォーム(2010年9月10日の発表が予告されている)がヒットするかもしれないという期待をしています。

――Twitterでは、ツイートにさまざまなデータを付与できる「アノテーション」機能が予告されていて、こちらによっても使われ方が変わる可能性がありますね。まつもとさんご自身として、これからのTwitterとの付き合い方はどうでしょうか?

あまり大きく変わることはないと思います。「フォロワー1000人」の最後ではTwitterの用途として「すばやい情報入手・伝達」「ディスカッション・ブレインストーミング」「気分転換や癒し」という3つを挙げました。最近ではそれに加えて「人と会うきっかけ」となることも多くなっています。

「チーム奈落」のときもその1つでしたが、電子書籍やコンテンツビジネス関係で話をしたいとか、いちど会いませんか、といったお声がけをいただく機会があります。ありがたいことなので、積極的に足を運ぶようにしています。

――なるほど。リアルな関係に繋がっていくのはとてもいいですね。ありがとうございました。

2010年に入ってから「フォロワー1000人」企画の後日談をと思いつつ、編集部の対応が追いつかず、十分な企画ができていませんでした。たいへん申し訳ありません。

まつもとさんの最近のTwitterでの活動は、ご自身の興味のあること、できることを突き詰めた結果としてスタイルが固まり、地に足のついた、以前よりも見ていてわかりやすい活動を続けているという印象があります。

ひとことで言うと「セルフブランディング」ということになるかもしれませんが、Twitterなどを利用して多くの人とコミュニケーションをするにあたり、自分は何に興味があり、どのようなことを提供できるのか、といったことをわかりやすくしておくことは、コミュニケーションを促進することにつながり、相手にとっても自分にとっても意義があることです。それは「フォロワー数を増やす」ということよりも、大事なことかもしれません。