こんにちは。できる編集部の井上です。「嫌われる勇気」(ダイヤモンド社)がミリオンセラーになるように、人の目が気になる方は多いのではないでしょうか。もちろん、私もそうです。

今回は、おなじみ住職で精神科医で、書籍「『あるある』で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)」の著者でもある川野泰周さんに、忙しい人の休息の仕方を教えていただきました。

誰しも人に認められたい欲求がある!

――川野さん、今週もご相談があります。上司からあきれられてないか、後輩からばかにされてないかな...など気になってしまいます。

川野 まずは人間の欲求についてお話ししましょう。アメリカの心理学者のアブラハム・マズローが提言した「マズローの欲求五段階説」というものがあります。

人間の欲求は5段階のピラミッドのようになっていて、低い階層の欲求が満たされると、より上の階層の欲求が出てくる、というものです(下図)。

人からの評価が気になることは、この図における上から2番目の第四欲求「承認欲求」です。裏を返せば、人から認められたいという人間なら誰しも持っている欲求、すなわち「自己愛」の一種なのです。

――よく女性誌などで「自分を愛してあげよう!」など書いていますが、自分を愛することは悪いことなのですか?

川野 いいえ。「自己愛」は本来、悪者でも何でもありません。適度な自己愛は自分を支えてくれるものです。ただ、肥大化した自己愛がやっかいなのです。

――そもそも自己愛とは、どうやって生まれてくるのですか?

川野 生まれて間もない赤ちゃんは自分と他人の違いを認識できません。しかし次第に脳機能を発達させて父親や母親と関わる中で、自分が他者と違う存在であることに気づいていきます。これが「自我」の芽生えです。

やがて成長して学校や社会に出るようになると、今度は周りと自我との間に摩擦が生じます。この摩擦が人から認められたい気持ち、すなわち「承認欲求」へと変化するのです。

――「承認欲求」が自己愛を肥大させるんですね?

川野 必ずしもそういうわけではなく、承認欲求を持つこと自体は当然のことです。しかし強すぎる承認欲求は自己愛を肥大させます。これが厄介なのです。

現代社会に多い心の病のほとんどは、肥大化した自己愛が引き起こしていると私は考えています。

あなたの自己愛は健全? まずは自分の「不安」に気付くこと

―健全な承認欲求や自己愛と、肥大化した自己愛とは、何が違うのでしょうか?

川野 自己愛が健全か肥大化しているかの見分け方は簡単です。その自己愛に自分自身が不安を感じるかどうかです。

「努力する自分を褒めてあげよう」
「自分はこんなに頑張っているのに報われない」

どちらの考え方に不安を感じますか?

――後者の言葉には、不安が見えますね!

川野 自分に対する他人の評価が気になってしまっている人の多くは、肥大化した自己愛に気づくことなく過ごしています。しかし無自覚なままで苦しむのは「苦しみの連鎖」を呼びかねません。

まずは自分の心の状態に気づくこと。自分の心に、他者から認められていないことによる不安が強くあると正確に知ることが第一歩です。

――悩んでいるときは、俯瞰的に自分を見ることができないですしね。

私も、肥大化した自己愛に気が付けました!ありがとうございます。

川野泰周(かわのたいしゅう)さん
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業後、精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行、2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で、うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療にあたっている。
著書「『あるある』で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)」。