書店に足を運んで本を探す人のために

――本のタイトルを教えてくれ。

妻の携帯電話に義父から連絡が来た。妻がタイトルを告げると、当時71歳の義父はメモをとり、私が初めて共著者として参加した本を探しに世田谷から渋谷まで出た。そして、本を購入してくれた。何か所かの書店を回り、書店員に尋ねたという。

――あっちの書店では目立つところに平積みにしてあったが、こっちの書店ではインターネット関連の棚に1冊差してあるだけだった。売る気がないのじゃないかと思ったよ。

義父がそう話すのを聞き、「本を書いてよかった」と心から思った。2012年のことだ。

私はふだん、デジタルマーケティングを通じて企業を支援する仕事をしており、発信といえば本よりも、ブログやSNSのほうが一般的な世界で生きている。

この世界では、本は手間をかけることなく、すぐに手に入る。本のタイトルをGoogleで検索すれば、ほぼ確実にAmazonのページがヒットする。そのままAmazonにアクセスすれば、購入完了まで10秒とかからない。慣れた人からすれば、わざわざ言うまでもないようなことだ。

私自身、実際そんなふうにして、これまで何十冊、何百冊と本を買ってきた。

しかし、義父はそうはしなかった。

義理の息子が本を出したと聞いて、タイトルの書かれたメモを片手にバスに乗った。書店に入ってメモを書店員に渡し、本のある場所まで案内されたのだと思う。念のために付け加えておくが、義父はデジタルの世界に疎いわけではない。むしろ普段からタブレットを持ち歩き、ネットで株価の情報をチェックし、趣味の仲間とはメールで活発にやりとりをするタイプだ。

最初の書店で並んでいる本を見た義父には、「ほかの本屋ではどういうふうに並べられているのだろう?」という疑問が湧いたはずだ。だから別の書店にも足を運び、書店によって並び方に違いがあることを発見した。

なぜ義父の気持ちが分かるのかというと、本を出した私自身、「ほかの本屋ではどういうふうに並べられているのだろう?」と考え、いくつもの書店をはしごしたからだ。義父が私の本の出版を「わがこと」のように捉え、喜んでくれたからこその行動であると実感できた。

これが、私が「本を書く」ことで得た最大の贈り物である。

現在、執筆に参加した本は、自分でPOPを作って書店に並べていただくようにしている。義父がしたように、気になる本を書店に足を運んで探す人がいることを知っているからだ。

本はいろいろな選ばれ方をすることを、これからも忘れないようにしたい。

『ネット広告運用

寳さん直筆のPOPと、著書の『ネット広告運用"打ち手"大全(できるMarketing Bibleシリーズ)』。デジタルマーケティング分野の専門書で、極めてプロフェッショナル向けの内容ですが、温かみのある手描きPOPのおかげで手に取りやすくなりそうです。


寳 洋平(たから ようへい)

寳 洋平(たから ようへい)
アユダンテ株式会社 チーフSEMコンサルタント

Web・紙媒体のコンテンツ企画や編集、ライターからSEMの世界へ。2010年よりアユダンテ株式会社に在籍し、SEM歴は13年を超える。
GoogleアナリティクスやGoogleデータポータル、Tableauを活用しながら、リスティング広告の設計・運用、コンサルティングに従事。アナリティクス アソシエーション(a2i)のセミナー編成委員も務める。趣味は料理、猫と遊ぶこと、折りたたみ自転車。

できるシリーズの著書

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