CGイラストで海外進出したものの......?
私はアメリカやヨーロッパのギャラリー向けにポップアート作品を描いているアーティストです。......我ながらすごく華やかに聞こえますが、ここにたどり着くまではけっこう地味な道のりでした。
20年ほど前、ゲーム会社を退社した私は、フリーのイラストレーターとして仕事を始め、実用的なイラストを仕事と割り切って楽しく描いていました。時々オリジナルのCGイラストを描いていましたが、控えめに言っても仕事には結びつかないであろう、完全に趣味のイラストでした。
10年後、仕事が増えて経済的に安定し、「1円にもならない絵を描いても意味ないよな」とかエラソーに言っちゃう、わけ知り顔の30代半ばになっていました。その「1円にもならない」CG絵を未練がましく描いては、ちまちまWebやイベントで発表してるくせに......
とはいえ、未練がましく描き続けた売れないCG絵(ちょいグロ)は、海外限定でほんのちょびっとだけ反応が出てきました。それは「Pop Surrealism」と呼ばれるジャンルで、専用のギャラリーや雑誌も多数あると知り、「海外なら売れるかも?!」と、ダメ元でそのジャンルの海外コンテストに応募しました。果たして!奇跡的に入選。NYのアート誌の表紙になり、続いて他のアート誌の表紙依頼やインタビュー取材が舞い込んできました。
いくつかの海外ギャラリーからグループショーへのお誘いがあり、本来であれば万歳三唱して喜んでいい状況です。しかし、10年売れなかったせいですっかり卑屈になった私は「こんなうまく行くはずがない」「きっとどこかに落とし穴が......」と先回りして警戒していました。
売れない作家の予感は的中。なんと、どのギャラリーも私のCG作品を油絵などのアナログ作品と勘違いしていたのです。ガーン......
あきらめなかった油絵への道
CGで描きはじめた「ちょいグロ」な作風を、油絵にも展開していった。
商品としてのアートは「一点モノ」にもっとも価値があります。もちろん有名アーティストのサイン入りプリントも展示販売されていますが、私のような駆け出しではギャラリーが求める売り上げに届きません。誘ってくれたギャラリーはほとんど手を引いてしまいました。アートがビジネスとして成立している海外だからこそ、のシビアな現実。
......ところで堅気の皆様は「じゃあ油絵で描けば?」とおっしゃるかもしれません。しかし長年CGに首までドップリ浸かってきた者にアナログで同じクオリティを求めるのは「すき焼きをアレンジしてショートケーキにしろ」くらいのムチャ振りなのです。同業の方はお分かりになりますよね?
全部夢だったのだ......とあきらめようとしていた矢先。私は仕事場の片隅に、誰がいつ購入したか分からない、ホルベインの「油絵初心者セット」が埃をかぶって放置されているのを発見し、ギョッとしました。まさかアートの神様からの「油絵を学べ!」というお告げか?! というのは冗談ですが、それにしても知らないうちに買い揃えていたとは、これはもうお告げに近いな......と、やっと油絵習得を決意しました。
さてさて、景気付けにロスのグループショーへの参加を決めたものの、「油絵初心者セット」は笑っちゃうほど使いこなせず、「ctrl+z」も「オーバーレイ」もない異世界をさまよってるうちに、諦めていた妊娠が判明。油絵具の薬品の臭いにえずきながらガスマスクをつけての作業でしたが、不思議と諦める気にはなりませんでした。私には10年越しの「すき焼きをアレンジしてショートケーキにする」ほどの覚悟があったのです。
2人分のアーティスト人生
2013年にニューヨークで行われた個展にて。現在もロサンゼルスでの個展を準備中。
時は流れて私は48才に。最初に描きあげた油絵はそれはもう最悪の仕上がりでしたが、ヨーロッパやアメリカのギャラリー向けに100枚以上の作品を作り上げました。絵の具で汚れた手で育てた娘はもう11歳に。今ではなんとか生活できるくらいの売り上げはキープできています。
アナログ転向を決心するのに10年、習得するのに12年(まだ勉強中ですが......)。何かを「できる」ようになるためには、まだまだ時間がかかるみたいです。
そんなわけで私は同業のアーティスト達より年上ですが、デジタル作家とアナログ作家、2人分の記憶を持っていて、ちょっと人生得してるかもなーと思う時もあるのです。
ドルバッキーヨウコ
多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、コナミ株式会社にデザイナーとして入社。退社後、1998年第12回銀座GGグラフィックアート「3.3㎡展」入選。2002~2004年にはミニモニ。アルバムCD、カレンダーなどのイラスト、モーニング娘。公式HP イラスト担当。現在はゲーム専門学校の講師。JILLA会員。
Yoko d'Holbachie名義で、2020年4月にロサンゼルスにて個展開催予定。
主な「できるシリーズ」の著書