YouTubeで学ぶ、新しいできるシリーズ
できるシリーズ25周年、シリーズ部数7,500万部、おめでとうございます! 私も、2019年に執筆させて頂いた「できるYouTuber式 Excel現場の教科書」を通じて、その一端を担うことができ、とても光栄な気持ちです。
さて、Excelの使い方を教えるユーチューバーだった私が出版した本は、少し風変わりなものでした。それは、本の各テーマにQRコードが貼られ、本のすべての内容をYouTube動画でも学べるよう設計したことです。言ってしまえば、消費者はわざわざ本を買わなくても、動画を見れば無料で同じことを学ぶことができてしまうのです。
この試みは、出版社にとっても「新しい挑戦」だったはずです。本文の無料公開をnoteで行う形は流行りましたが、YouTubeで行うのはおそらく初めてです。そんな本が生まれるきっかけになったキッカケのお話し、編集者と企画時に話していたことを書きたいと思います。
数多くのExcelユーザーの悩みを解決してきた長内さん
正直にいうと、本を出すつもりがなかった
2020年2月現在、お話をいただいた時から2年、発売してちょうど1年が経ちました。「できるYouTuber式 Excel現場の教科書」は、出版社や関係者の皆様のおかげで、いい本となり、いい棚をとれ、結果として1年間で6刷を達成することができました。本当にありがとうございます。この本が世の中に広く行き渡り、読者の皆さまに喜んで頂けていることが何よりも嬉しいです。
ただ、正直に話します。今思い返すと、出版のオファーをいただいた2018年、私は本を書くことに前向きではありませんでした。巷にはExcelの本があふれ、今さら私がふつうに本を書いたところで、社会に対する付加価値が生まれる余地はほとんどありません。だからこそ、出版のお話をいただいた時から数週間「自分にしか作れない本とはなんだろう」と考え、答えがでなければオファーを断ろうとも思っていました。
ラッキなーことに、私は1つの答えにたどり着きました。ユーチューバーにしかできないこと、その答えは「動画と本を掛け合わせた新しい学習体験をお届けすること」でした。このアイデアのきっかけになった原体験については私の本のコラムにも書いたので省きますが、編集者に連絡をし、渋谷にある今風のカフェでブラックコーヒーを飲みながら「この動画本で、次の時代のNo.1Excel書籍を作りましょう!」と鼻息荒げに話していたのを思い出します。
「できるYouTuber式~」に読者宛のメッセージを書き込む
「なぜ無料の動画で学べるのに、有料の本も買ってもらえるのか」3つの仮説
「いいものを作りましょう! おさとさんなら絶対にできる!」と編集者の方が背中を押してくださる中、私はこの「動画本」というアイデアを社内で通していただくために、編集者の方に「なぜユーザーは無料の動画で学べるにも関わらず、有料の本も買いたくなるのか」という問いに対する仮説を話していました。当時考えていた仮説は3つほどありました。
①動画と本は補完財の関係にあるから、動画が見られると本が売れる
②動画には食い込めない聖域があるから、動画が見られると本が売れる
③インフルエンサーマーケが成り立つから、動画が見られると本が売れる
結果として「できるYouTuber式 Excel現場の教科書」のヒットを通じて、これらの仮説が正しかったことが証明されたと考えています。
仮説① 動画と本は補完財だから売れる
YouTubeで全て無料で学習できるのに、なぜ売れたのか。第一義的には「本の価格 < 消費者の時間コスト」が成立したからです。編集者の方にも次のようなことを話しました。
「何かを学ぶ上で、動画は情報量が多くビジュアルで分かりやすいのはいいんですが、一方で、どこにどんな情報が隠れているか探すのが大変です。なので、情報検索にかかる時間コストが大きい。ビジネスマンは見てられないんですよね。だからこそ、動画の短所を補うものとして、即時検索ができる「本」が売れるんです」と。
人間は、忘れる動物です。だからこそ、動画での学びを思い出したい時に、本でサクッと調べるという行為が自然に生まれます。ネットリテラシーが高い人には、ウェブテキストがあれば十分という方もいらっしゃいますが、リアルの手触り感や体験価値としての「本」は、最強の補完財だと思っています。
(Excel現場の教科書P.18 プロローグより抜粋)
仮説② 職場という聖域があるから売れる
この他にも、本が売れる理由はいくつかありました。世の中的には、YouTube=時間つぶしのための娯楽、として捉えられているため、職場での動画視聴は大手であればあるほどご法度です。本人はExcel動画を見ているつもりでも「あいつ、仕事しないでYouTube見てやがる......」と周りに思われる心理的なハードルがありますし、そもそもネットワークでサイトアクセス制限をかけ、業務中は見れない設定にしている会社もあります。
前職で実際にサラリーマンをしていた時、本を片手にExcelとにらめっこしている先輩を見て「あー、職場では動画見れないもんなぁ。ウェブとか本で検索するしかないよなぁ。」と。まさに動画が食い込めない職場という聖域を目の当たりにしました。参考書としていつでも調べられるように、机に一冊置いておく。まさに「現場の教科書」です。
仮説③ 信頼があるから売れる
ビジネス教育系ユーチューバーである私は、「Excel」というニッチカテゴリで、視聴者の方に信頼していただく状態を5年かけて作り上げました。視聴者基盤は数万人ベースだったのでエンタメ系の方々と比べると規模こそないものの、視聴者の熱狂度は確かなものがありました。「広さ」はないが「深さ」がある、マイクロインフルエンサーのポジションです。
実際「おさとさんの本、待ってました!」と、視聴者コメントをたくさんいただきました。書店で見つけたら写真を撮って送ってください、とLINEで投げかけると「〇〇書店に本ありましたよ~」といった形でLINEが数百件届いたのもいい思い出です。独自の動画構成とオペレーションチームを抱えたことが、本の販促に寄与したと考えています。
最後に
これまでにないExcelの本を世に生み出せたことが、私の人生の誇りです。この本に携わってくださった全ての方々に感謝申し上げます。
「人の役に立つことを通じて、現代の動画版図書館(YouTube)を彩る」という弊社のビジョンにひもづく自慢のプロダクトであり、こういったプロダクトを1人でも多くの方にお届けできるよう、最高のコンテンツ体験を提供する会社を目指していきます。
情報で人生の選択肢を増やし、体験で個人の人生に寄与する「できるYouTuber式シリーズ」がその一助となることを、心から願っております。
長内孝平(おさないこうへい)
1990年生まれ。Youseful株式会社代表取締役。「できるYouTuber式 Excel現場の教科書」著者。
米ワシントン大学留学、神戸大学経営学部を卒業後、新卒で伊藤忠商事株式会社に入社。
会計・税務を専門にトレード・投資案件のプロジェクトに従事。2018年7月に同社を退職後、Youseful株式会社を創業。ビジネス教育系YouTuberとして、就活に役立つビジネス知識を楽しくお届けする「トップ就活チャンネル」を運営し、ハイキャリアを目指す大学生や若手社会人の人材開発支援を行う。その他、50,000人以上が登録する日本最大級のExcel専門チャンネル「おさとエクセル(ユースフル)」を運営すると共に、2週間の短期集中Excelトレーニングプログラム「ExcelPro」を開発・運営する。
主な「できるシリーズ」の著書