移行しなければコストゼロ、ではない
「サポート終了後もWindows XPを使い続けることは危険だ」と言われても、発生するかどうかわからないトラブルを恐れて、問題なく動いているパソコンをわざわざ新しい環境に移行することに、疑問を感じている人も少なくないでしょう。
パソコンの移行には、当然コストがかかります。では、移行しなければコストはゼロだと考えていいのでしょうか? 必ずしもそうとは限りません。移行しないでトラブルが発生し、被害に遭えば、なんらかの形での出費(損失)が発生します。この章では移行にかかる「移行のコスト」と、移行せず、トラブルにが発生したときの損失額としての「移行しないコスト」をそれぞれ計算し、比べてみます。
必要な作業を含めて「移行のコスト」を計算しよう
まずは「移行のコスト」を考えてみましょう。具体的な金額については、以降のレッスンでケース別に詳しく検討しますが、項目としては以下のようなものが考えられます。
意識したいのは、パソコン本体だけでなく、ソフトウェアのバージョンアップや周辺機器の買い換えも検討が必要になる点、それとさまざまな作業の「目に見えないコスト」です。移行前の動作検証、パソコンの設置やセットアップ、データの移行の、それぞれに作業が必要になるほか、移行直後は慣れない環境で作業をして業務効率が低下する可能性があるため、残業の費用として影響を見込んでおきます。そのほか、古いパソコンのハードディスクの初期化などを行なうデータ破棄作業や、新しいパソコンに慣れるためのトレーニング(勉強)にかかる時間も見込んでおきましょう。このように計算していくと、意外とコストがふくらむことがわかります。
●企業でパソコン1台を買い替えたときのコストの例
「移行しないコスト」はリスクから計算しよう
続いて、「移行しないコスト」を考えてみましょう。「移行のコスト」は、移行すると決めれば必ず発生する確定的なコストですが、「移行しないコスト」は、マルウェアの感染などによるトラブルが発生した場合にのみ発生することになります。
具体的には、トラブルによって営業が停止した期間の損失を年商から計算したもの、復旧作業にかかる労力を時給換算したもの、さらに、トラブルによる信用の失墜が事業に与える影響などを検討する必要があります。
レッスン3ではトラブルの影響として、金銭的な損失や信用の失墜などを挙げましたが、本章では、これらの損失を「経済的損失」「人的損失」「社会的損失」の3種類に分けて考え、「移行しないコスト」として計算します。具体的には、レッスン7、レッスン8を参照してください。
算出した「移行しないコスト」は、あくまでもトラブルが発生したときを想定した場合のコストですが、これが「移行のコスト」を上回れば、今の段階でコストをかけてでもパソコン環境を移行する価値があると判断するべきです。
●トラブルにより発生する3つの損失
起こりうるシナリオからリスクを検討しよう
実際に「移行しないコスト」、つまりトラブルによる損失を検討するときは、起こりうるトラブルの状況を具体的、かつ詳細に想定する必要があります。例えば、1台のパソコンが使えなくなった状況と10台のパソコンが使えなくなった状況では、被害の規模も、損失額も大きく異なります。業種やパソコンへの業務の依存度によっても変わるでしょう。
そのため、個人または企業で、具体的なシナリオを考えて、起こりうる被害と損失を考えてみることが大切です。突然トラブルが発生した場合を想定し、「いつ発生したのか?」「どこで発生したのか?」 「それによって普段の生活や会社の業務にどのような影響があるのか?」「そのときどのような行動をしなければならないか?」「迷惑をかける可能性がある関係者は誰で、どのような影響があるか?」 といったシナリオを作ってみましょう。
[ヒント]「目に見えないコスト」を意識しよう
コストを考えるときには、パソコンやソフトウェアの費用だけでなく、セットアップやデータの移行などの作業にかかる「目に見えないコスト」も計算します。企業では作業時間を時給換算し、具体的な金額として把握しておくことが大切です。
[ヒント]深刻度別に複数のシナリオを検討しよう
「移行しないコスト」のシナリオを考えるときには、どの程度の被害を想定するかが重要なポイントになります。理想は、楽観的なシナリオ、中間のシナリオ、深刻なシナリオと、程度を変えて複数のシナリオを検討することです。そこまで時間をかけられないという場合は、あまり極端にする必要はないものの、ある程度は深刻なシナリオを検討しておくべきです。深刻な被害を受けるシナリオを考えておけば、いざ実際に何かトラブルが発生した場合でも、取るべき対応が想定内にあり、慌てずに対応できる可能性が高くなります。