クラウドのメリットをスマートに訴求
アップルは、感覚的な訴求に優れた企業です。マイクロソフトをはじめとした多くのライバルが、自社の製品・サービスについての機能や売上といったビジネスライクな訴求に終始しがちなのに対し、アップルは「触ってみたくなる」「触って気持ちいい」デザイン、興味をひく謎めいたキャッチコピー、エンターテインメント性の高いキャンペーンなどで訴求し、多くのユーザーの心をつかんできました。
同社はここ2年ほどモバイルに注力し、ワイヤレス&同期をテーマにしたプロダクトを次々に発表しています。クラウドコンピューティングによって一般ユーザーが得られるメリットの中でもっともわかりやすく、かつ画期的なものは、クラウドのサービス+モバイルデバイス+ワイヤレスブロードバンドによる、モバイル環境でのデータ同期です。いつでもどこでも、手元のデバイスでパソコンと同じデータを扱えることの便利さは、一度体験してしまったらもう手放せません。
アップルはそれらを体験できる、もっとも魅力的なデザインとユーザーインターフェースを持った製品・サービスを提供している企業だと筆者は考えています。「もっとも」かどうかは異論のある人もいるかもしれませんが、ここで紹介する同社の製品群を見れば、魅力の一端は感じられると思います。
●アップルのモバイル+ワイヤレス製品群
モバイル+ワイヤレスを意識した「MacBook Air」
2008年1月に行われた「Macworld Expo 2008」で、アップルは「There's something in the air.」というキャッチコピーを掲げ、超薄型・軽量のノート「MacBook Air」を発表しました。
このとき、スティーブ・ジョブズCEOがマニラ封筒からMacBook Airを取り出したパフォーマンスは大いに話題となり、テレビなどで多数紹介されました。その後、ほかのメーカーが薄型のノートパソコンをアピールするときに、同じように封筒から取り出してみせた、というエピソードもあります。
MacBook Airの重さは1.36kgと、モバイルパソコンとして特別に軽いわけではありません。しかし、最厚部で1.94cmという薄さ、数値以上に薄く見えるデザインは素晴らしく、「こうやって持てば満足感が最大化します」という封筒を使ったアピールもまた、見事です。
無線でバックアップできる「Time Capsule」
Macworld Expo 2008では、同時に「Time Capsule」という製品も発表になりました。これは高速無線LAN規格「IEEE802.11n(ドラフト2.0)」に対応し、同時にハードディスクも搭載した無線LANルーターです。
Mac(Mac OS X Leopard)が持つ自動バックアップ機能「Time Machine」と連携し、無線接続しているだけで自動的にハードディスクをバックアップします。設定は最初の1回だけで、あとはこれといった操作をする必要はありません。複数のMacのバックアップを同時に行うこともできます。
自宅のLAN内で完結するのでクラウドとは関係ありませんが、ワイヤレス&同期のおもしろい活用例ではあります。今後は同じコンセプトで、アップルが提供するサーバーにインターネットを経由してバックアップするサービスが登場するかもしれません。
●Time Capsuleの利用イメージ
日本ケータイ業界に衝撃を与えた「iPhone」
2008年におけるアップル、そして日本の携帯電話業界を語る上で、「iPhone(iPhone 3G)」は絶対にはずせないプロダクトでしょう。2008年6月に登場し、同年7月に日本での発売が決定すると、発売当日は各地で行列ができ、その様子がテレビなどで大々的に取り上げられました。
アメリカで初代「iPhone」が発表されたのは、2007年6月のことです。同年9月には、iPhoneから電話や一部の機能を省いたデバイス「iPod touch」を発表しています。そのシンプルで未来的な形状や、ユニークなマルチタッチインターフェースに魅了された人は多いでしょう。同じ写真やWebページでも、iPhoneで見るときには特別なおもしろさや感動があります。
マルチタッチインターフェースのインパクトは非常に強かったようで、2008年後半には日本の携帯電話キャリア各社から、「タッチ」をウリにした端末が多数発表されています。また、iPhone専用のインターフェースを提供するWebサイトやサービスも増え、その影響力と人気の高さがうかがえます。
複数デバイスで情報を同期する「MobileMe」
2008年6月には、「iPhone 3G」と同時にワイヤレスの情報同期サービス「MobileMe」も発表されています。MacとiPhone/iPod touch、そしてWindowsにも対応した有料サービス(年間9,800円)です。
現時点では、アップルの戦略のうちもっともクラウドを強く意識させるサービスと言えます。ロゴマークに「雲」が描かれているのも、単なる偶然ではないでしょう。
MobileMeにはメール、連絡先、スケジュール(カレンダー)を同期する機能があり、例えばMacで入力した予定をiPhoneで確認する、出先からiPhoneでメールを読み返事を書く、といったことができます。そのほか、オンラインストレージ「iDisk」、写真共有「ギャラリー」の機能があります。機能的には、Googleやマイクロソフトが有料で提供しているサービスと比べて、特に抜きん出たものがあるわけではありません。しかし、MacやiPhoneと深く連携したユーザーインターフェースで使えること、多機能ではないものの必要性の高いものに絞った機能群をわかりやすく提供していること、そして何よりもアップルのブランドであることが魅力的なサービスです。
▼MobileMe
http://www.apple.com/jp/mobileme/
●MobileMeのサービス概念図
[ヒント]「iWork '09」文書のWeb共有サービス「iWork.com」開始
アップルが提供するMac OS X用オフィススイート「iWork」は、文書編集の「Pages」、表計算の「Numbers」、プレゼンテーションの「Keynote」がセットになっています。この最新版「iWork'09」が2009年1月に発売され、新機能としてMicrosoft Office Live WorkspaceのようにWebでの文書共有ができる「iWork.com」ベータ版との連携機能を搭載しました。「オフィス文書をWebで共有」というトレンドにアップルもキャッチアップした形で、PDF形式やMicrosoft Office形式での共有も可能です。
[ヒント]MobileMeを無料試用してみよう
MobileMeは60日間の無料試用が可能なので、対応デバイスを複数持っているならMobileMeのページから申し込んでみましょう。[フリートライアル]をクリックして必要事項を入力し、登録が完了したら各デバイスで設定を行うと利用できます。詳しい設定方法は、お使いのMacやiPhone、iPod touchのヘルプなどを参照してください。Windowsで利用するには、別途「iTunes」をインストールする必要があります。なお、利用にはクレジットカードが必要で、フリートライアル申し込み時にカード情報の入力を要求されます。また、フリートライアル終了後は自動的に有料利用継続とみなされ、課金が開始されるので注意が必要です。解約したい場合は、トライアル期間中に必ず解約しましょう。