持ち運んでの使用が大前提の「VAIO type P」ですが、こうした用途にはデータ通信が欠かせません。また、通信環境と同じくらい重要なのがバッテリーの持ちです。ハードウェア周りやWindows Vistaのカスタマイズについて紹介した前編に引き続き、ここではVAIO type Pを毎日のように持ち歩いている筆者が感じた、モバイル環境での使い勝手をレビューしましょう。
イー・モバイルとYahoo!無線LANスポットを併用
2009年4月現在、VAIO type PにはNTTドコモの通信モジュール(ワイヤレスWAN)を内蔵したモデルがあり、そのモデルでは単体での通信が可能です。ただ、筆者が購入した時点では、通信モジュール内蔵のモデルが発売されていませんでした。また、すでにイー・モバイルの回線を契約済みで継続契約期間も1年残っていたため、インターネットへの接続は外付けのUSBモデム(D02HW)を使用しています。D02HWは下り最大7.2MbpsのHSDPAに対応しており、実測値は下りで1~2Mbpsほど。Webの閲覧程度なら、これで十分です。
イー・モバイルのUSBモデムとVAIO type Pをつないだ状態。横に出っ張るため場所によっては使いづらくなるので、これから購入する方は後述の通信モジュール内蔵モデルも検討しましょう
▼イー・モバイル「D02HW」
http://emobile.jp/products/hw/d02hw/
とはいえ、データ量の大きい写真などをダウンロードするには、USBモデムでは少々時間がかかります。また、HSDPAでは下り速度は高速なものの、上りは最高384Kbpsと大幅に遅くなり、記者会見などで撮影したサイズの大きい写真を送信するには力不足です。さらに、イー・モバイルのエリアは2008年12月末時点で人口カバー率88%と、開業当初よりは大幅に広くなっているものの、まれに地方や建物の中などで利用できないことがあります。
そこで筆者は、公衆無線LANサービスも利用することで、イー・モバイルの弱点をカバーすることにしました。契約したサービスは「Yahoo!無線LANスポット」。ソフトバンクテレコムの「BBモバイルポイント」のアクセスポイントを利用できる公衆無線LANサービスで、Yahoo! Japanのプレミアム会員(月額346円)なら月額210円で利用できます。
BBモバイルポイントのアクセスポイントは、無線LANの規格のうちIEEE802.11b(最大11Mbps)とIEEE802.11g(最大54Mbps)に対応しており、前者での体感速度はイー・モバイルより若干速い程度。同じ場所で利用者が多いと速度が低下することもあるため、過度な期待は禁物ですが、料金が安い割にはエリアが充実しています。
▼Yahoo!無線LANスポット
http://wireless.yahoo.co.jp/
腰をすえて作業するならマックが便利
前編で述べたように、筆者はVAIO type Pを主にテキスト入力や簡単な画像処理に使っています。また、ケータイでは取り扱えない(取り扱いにくい)データの送受信なども、このパソコンの出番です。
このような用途では、机やテーブルの上で作業するのが理想的。BBモバイルポイントは駅やさまざまなカフェで利用できるので、それらを見つけて作業するのがベスト......と言いたいところですが、実際はそううまくいかないものです。街中で公衆無線LANが利用できるカフェを探すのは容易ではなく、取材で初めて訪れた街では、なおさら通信環境の確保が難しくなります。
そこで重宝するのがマクドナルドです。筆者がBBモバイルポイントでもっとも便利だと感じているのがマクドナルドへの対応で、全国に3,700ヵ所以上の店舗があるため、大きな駅がある街ならすぐに見つけられます。腰をすえて作業するにはうってつけと言えるでしょう。BBモバイルポイントはほかにも、2009年3月に大幅増発されたN700系の新幹線内でも接続可能です。
イー・モバイルとYahoo!無線LANスポットの料金を合わせると、最大で月額5,536円。イー・モバイルの料金形態が1,000~4,980円の2段階制のため、通信をなるべく無線LANで行うようにすれば、コストはさらに割安になります。筆者の用途とコストパフォーマンスを考えると、個人的にはこの組み合わせがベストだと感じています。
●筆者が利用しているデータ通信サービスと料金
サービス名称 | 料金 |
イー・モバイル スーパーライトデータプラン(新にねん) | 1,000~4,980円 |
Yahoo!無線LANスポット | 210円 |
Yahoo!プレミアム会員費 | 346円 |
合計 | 2,766~5,536円 |
BBモバイルポイントのログイン画面。エリア内でSSIDとWEPキー(パスワード)を入れたあと、Webで認証を行います
ログインが完了するとこの画面が表示されます。あとはWebやメールを自由に利用できます
NTTドコモのデータ通信サービスも検討中
ただ、これからVAIO type Pを購入する方で、かつデータ通信の手段がない場合は、通信モジュール内蔵モデルやNTTドコモのデータ通信カードを購入するという選択肢も視野に入れておくとよいでしょう。筆者もイー・モバイルの2年契約終了後は、これらのサービスの利用を検討しています。
料金は端末をバリュープランで購入し、「定額データプランHIGH-SPEED」と「定額データ割」に加入すれば、月額3,465~5,985円の間に収まります。定額データプランHIGH-SPEEDに対応したプロバイダー「mopera U」への加入に別途840円かかりますが(利用中のプロバイダーが対応していれば、より安くなることがあります)、この費用を足しても4,305~6,815円です。
イー・モバイルの「年とく割」や「新にねん」を利用した「スーパーライトデータプラン」では月額1,000~4,980円のため、これと比べると少々割高に感じますが、NTTドコモのエリアはすでに人口カバー率100%。混雑する都市部でも細かく基地局が設置されているため、ほとんどの場所で高速な通信が行えます。
ストリーミングでの動画閲覧やSkypeのような音声サービスなどに対する制限はありますが、筆者のように仕事でのWebとメールチェック、画像の送受信程度なら十分実用的と言えます。さらに、通信モジュール内蔵モデムでは、わざわざデータ通信モデムをパソコンに挿さなくていいという快適さも手に入ります。USBでしか接続できないVAIO type Pでは、どうしてもモデムが出っ張るため、シチュエーションによっては使い勝手が悪くなります。通信モジュール内蔵モデルならケーブルをつなぐ手間もなくなるため、まさに「ケータイ感覚」です。
●NTTドコモのサービスを利用した場合のデータ通信料金の例
サービス名称 | 料金 |
定額データプランHIGH-SPEEDバリュー | 3,465~9,765円 |
定額データ割 | 上限を3,780円割引 |
mopera U | 840円 |
合計 | 4,305~6,815円 |
通信モジュール(ワイヤレスWAN)とGPSはセットにできますが、これらを搭載するとワンセグチューナーを搭載できなくなります。筆者はケータイで見られるので不要ですが、購入時には注意が必要です
メモ程度なら標準で3時間以上の利用が可能
いかに通信環境を整えても、バッテリーが切れてしまってはモバイル機器にとして役立ちません。また、VAIO type PのACアダプターはコンパクトなので持ち歩いても苦になりませんが、外出先で必ずコンセントが見つかるとは限りません。店舗によっては、充電を断られることもあります。
前編で述べたように、筆者は標準バッテリーを使用しています。標準バッテリーの連続駆動時間は、カタログ値で約4.5時間。当然、実使用では設定や利用する機能により、駆動時間が大幅に変わります。筆者の利用スタイルだと、次のようになりました。
まず、通信を行わずにテキストエディターでメモをする場合。この利用方法では、3.5時間ほどバッテリーが持ちます。1.5時間ほどの記者会見中にずっと起動していても、バッテリーが空になる気配はまったくありません。ただ、イー・モバイルや無線LANで通信を行うと、駆動時間はこれよりやや短くなります。常に通信しているわけではなく、利用するソフトにもよっても変わりますが、1.5~2.5時間ほど使い続けることができました。
通知領域にある電池のアイコンにマウスポインタを合わせると、残りの駆動時間が表示されます。その都度計算をしているようなので、結果が変わることもあります
[電源オプション]のプラン設定を変更する
バッテリーの駆動時間は、設定次第で伸ばすこともできます。Windows Vistaの[電源オプション]には[バランス][省電力][高パフォーマンス]という3つのプランが用意されています。VAIO type Pでは、これに加えて[VAIOスタミナ設定][VAIO標準設定][電源管理オフ]を利用できます。通常はこの中からプランを選べばよいのですが、筆者はACアダプター利用時はフルパワーで、バッテリー利用時は極力電力を使わない形にしたかったため、手動で設定を変更しました。
設定するには、まず[スタート]メニューの[コントロールパネル]をクリックし、[ハードウェアとサウンド]-[電源オプション]をクリックします。変更したい電源プランの[プラン設定の変更]をクリックすると[プラン設定の編集]が表示され、バッテリー駆動時と電源接続時の、ディスプレイの電源を切るまでの時間やスリープ状態にするまでの時間を変更できます。それぞれのディスプレイの輝度も調整可能です。筆者は[高パフォーマンス]をベースに、設定をカスタマイズしました。
バッテリーの省電力設定を変更するには、[電源オプション]を表示して各プランの[プラン設定の変更]をクリックします
[プラン設定の編集]が表示され、バッテリー駆動時と電源起動時のそれぞれでスリープ状態への移行時間などを調節できます。筆者は画面のように設定しました
休止状態をなるべく利用しないようにする
[プラン設定の編集]で[詳細な電源設定の変更]をクリックすると、さらに細かな調節が行えます。ここで特に重要なのが[スリープ]の設定。VAIO type Pは休止状態からの復帰が遅いこともあり、基本的にはスリープのみで運用するのが正解です。
筆者は[ハイブリッドスリープを許可する]を[オフ]にし、[次の時間が経過後休止状態にする]の時間を延ばしました。「ハイブリッドスリープ」とは、作業状態をメモリだけでなくHDDにも保存する、スリープと休止の中間のような省電力状態を指します。なお、[ワイヤレスアダプタの設定]も、[バッテリ駆動時]だけは[省電力(中)]にしています。
[プラン設定の編集]で[詳細な電源設定の変更]をクリックすると表示される詳細設定画面。特に[スリープ]の設定がポイントです
「2台目の通信機器」の主役になりそうな予感大
以上の設定を行っても標準バッテリーだけは心もとないので、長時間使うことが確実にわかっている場合は、ACアダプターも持ち歩くようにしています。とはいえ1~2件程度の取材なら、標準バッテリーだけでも大丈夫。ACアダプターを持ち歩くのは、取材の合間に時間のかかる原稿を書いたり、数時間連続するセミナーや講演を取材したり、出版社などで長時間作業したりといった特定のケースだけです。ほとんどの場合は、VAIO type P単体で出掛けています。
VAIO type Pに付属するACアダプター。非常にコンパクトなので、持ち運んでも邪魔になりません
こうした手軽さもあって、今ではVAIO type Pが仕事には欠かせなくなりました。「ケータイのほかにもう1台持ち運ぶデジタルガジェット」を目指して企画されたVAIO type Pですが、実際に使ってみると、そのコンセプトが非常によく理解できます。筆者が自分自身の使い方を振り返ってみても、ケータイではできないことを補うためにVAIO type Pを活用しています。
このように考えると、VAIO type Pはパソコンではあるものの、iPhoneやWindows Mobileを搭載したスマートフォンに近い存在である、と言えるかもしれません。筆者が取材を続けるケータイ業界では、スマートフォンが「2台目需要」に応える端末だと言われています。しかし、ここまでコンパクトでネットに接続しやすく、軽いパソコンがスタンダードになると、スマートフォンとパソコンをあえて区別する必要がなくなるような気がします。スマートフォンとパソコンの境界がどんどんあいまいになる――VAIO type Pはそのような未来を予感させる1台です。