前編から続く)


「最近iPhoneにしました」という川崎さんは、ナンバーポータビリティでiPhoneに一本化した「漢持ち」状態。「はてなtouch」「ポケット」など、一般ユーザーが開発したはてなブックマークのアプリもインストールされていました

ブックマーク→グループ→ダイアリーで関心の高い情報を抽出

――ここまではてなブックマークについてお聞きしましたが、それ以外のはてなのサービスは、どのように活用されているのでしょうか?

川崎:はてなブックマークでブックマークを続けていき、あとでそれを見渡してみると、自分自身があまり意識しないうちに、「あ、自分はこのトピックに関心があるんだ」という気付きが生まれることがあります。そういったトピックについては、自分用のグループが作れる「はてなグループ」に、コメントを付けて投稿するようにしていますね。

――いったん集めた情報の中から、「これ」というものをコミュニティに投げてみるわけですね。

川崎:そうすると、その投稿に対してほかのユーザーからコメントが付いたり、関連する別のトピックが立ったりします。周辺情報や自分だけでは思いつかなかったネタも含め、またそこに情報が集まり出すのです。

そういった工程を経た情報は、さらに「はてなダイアリー」で記事を書くようにしています。情報をフィルターにかけ、関心の高い情報を抽出して純度を上げ、それをコミュニティと共有することで周辺情報などが集まり、さらに価値が高まっていく――。その結果をはてなダイアリーで整理し、きちんとした形で共有する、という流れです。

例えば、私はけっこう本を読むほうなのですが、興味を引かれたものについては、すべてはてなグループにコメントを投稿するようにしています。はてなダイアリーでまとめるのは、はてなグループでの作業を通じてもう一度読み直して、いろいろ考えてみたくなった本が対象になりますね。深く理解した本についてまとめたはてなダイアリーの記事にコメントが付けば、もちろんうれしいし、新たな刺激にもなっていきます。


川崎さん流のはてな活用ワークフロー。ブックマーク→グループ→ダイアリーという3段階で、情報の純度が高まっていきます

はてなダイアリーで運営されている川崎さんのブログ。はてなの話題はもちろん、映画や食べ物、フットサルなど日常の話題についても触れられています
kawasakiのはてなダイアリー

――「情報の段階に応じて最適なサービスを選ぶ」というフローを確立されているようですね。読書術としてもまねしたいテクニックです。

川崎:はてなブックマークを使う段階より前の、さまざまな情報を広く探す過程では、「Twitter」や「Googleリーダー※1」など、はてな以外のサービスも使っています。ただ、ここまでで紹介したはてなブックマーク以降の流れ、つまり情報の純度を高める一連のワークフローについては、浮気をしたことはないですね。

最近は「Tumblr※2」などの高機能なクリッピングツールも人気ですが、はてなブックマークは「情報をブックマークする」という極めてシンプルな機能しか備えていません。そのことがかえって「とにかく素早く情報を集める」という段階には適していると思います。

――純度を上げていく段階では、情報の中にほかのユーザーのコメント、つまり「人」の存在もありますよね。

川崎:そうですね。ただ、はてなのサービスはSNSなどとは異なり、「人」と「人」が直接つながるようには設計されていません。はてなブックマークならブックマーク、はてなダイアリーならキーワードというように、あくまで「情報」を介してつながることをコンセプトにしています。人と人が密につながりすぎると、疲れちゃうことがありますからね。

――いわゆる「ソーシャルメディア疲れ※3」ですね。

川崎:はい。ただ、はてなブックマークで私を[お気に入り]にしてくれているユーザーが大勢いるので、「面白いものをブックマークしなきゃ」という責任を感じることはあります(笑)。

「変な会社」は健在!? 独特な社内コミュニケーション

――話は変わって、川崎さんのお仕事について教えてください。川崎さんは営業担当役員として、さまざまな企業の方との商談に臨む機会が多いと思いますが、どのようなやり取りをされるのでしょうか?

川崎:最近ありがたいなと思うのは、「はてなブックマーク、使ってますよ」とおっしゃる方が圧倒的に増えたことですね。以前は商談に行くと、「IEの[お気に入り]のようなものがネットにつながってですね......」とか、「ソーシャルブックマークとは何か」という説明から始めなければならなかったのですが、最近ではすぐに提案に入れるようになりました。

また、マーケティングや宣伝・広報の方からよく評価していただけるのが、はてなブックマークのブックマーク数ですね。ページビューやユニークユーザーは「単に見た」という指標ですが、ブックマーク数は「読み返す意志がある」という指標です。ユーザーの感情が入るという点で、まったく重みが違います。マーケティングデータとして、ユニークであると同時に一定の存在感を持ち始めているなと感じています。

――はてなは東京・京都・米国と3ヵ所にオフィスが分かれていますが、社内のコミュニケーションに何か工夫はありますか?

川崎:テレビ会議を頻繁に行っているのですが、2つ工夫があります。1つは、机の配置ですね。カメラとテレビ、そして机の位置を調整して、会議中はあたかもテレビの画面内で机がつながっているようにセッティングしています。ちょっとしたことですが、一体感が全然違うんですよ。


オフィス内に設けられたテレビ会議システム。京都本社の会議室との一体感が生まれるように工夫されているほか、周りに間仕切りなどもありません

川崎:そしてもう1つは、カメラが会議の時間だけでなく、常につながっていることです。

――「常に」ですか? 普通は会議のときだけ、スイッチを入れますよね。

川崎:はい。カメラをこうやって遠隔操作して、話しかけたい人に向かって呼びかければ......「おーい、○○さーん」

――あ、近づいて来られましたね。

川崎:「ごめんごめん、取材中のテストでした。呼んだだけです(笑)」......という具合にコミュニケーションできます。

――あと、はてなでは「ランチをオフィスで一緒に食べる」というのも有名ですよね。

川崎:毎日というわけではなく、週3日、決まった曜日にですけどね。この炊飯器でご飯を炊いて、ケータリングしたおかずをみんなで食べています。外に食べに行くよりも時間を効率化できる点と、やはりコミュニケーションを図るという点でメリットが大きいです。


はてな東京本店に鎮座する巨大な炊飯器。学生時代の合宿、そしてそこで生まれる一体感を思い起こさせる一品です。京都本社ではもっと本格的で、おかずまで作っているそうです

――まさに「同じ釜の飯を食う」ですね。みなさんでのコミュニケーションとしては、グループウェアなども活用もされているのでしょうか?

川崎:社内専用のはてなグループを用意して、とにかく何でも書き込むようにしています。書き込むときに「社内で共有するほどの価値がある情報か」ということは特に考えずに、どんどん書き込むことをすすめています。はてなブックマークにどんどんブックマークする、という話とも似ているのですが、グループウェアにも情報がどんどん入っていかないと、活用が進みませんからね。そして、それぞれの情報に対してidトラックバックを送るのです。

――「idトラックバック」とは何ですか?

川崎:投稿した人が、例えば「この件はAさんに読んでほしい」「この仕事はBさんに担当してもらいたい」というときに、その人へトラックバックを送るのです。すると、はてなグループから関係する人にお知らせメールが送られる、という流れです。

ちなみに、はてなの社内ではメール単体でのやり取りはほとんどありません。社内で何らかの意志決定がなされるときも、メールだけで知らせるということはほとんどなく、はてなグループ経由になっています。


はてな社内のはてなグループをちょっとだけ公開。はてなダイアリーなどにもあるidトラックバックを利用して、情報の共有や仕事のアサインを実現しています

ネットだけではない、「普通の人の感覚」も大事に

――ほかに、仕事において気を付けていることはありますか?

川崎:徹底して心がけているのは、「夕飯は帰宅して食べる」ことですね。家族とのコミュニケーションを取りたいですし、やはり外食が続くと健康管理上よくないですから。

また、「お腹が空いたら家に帰る」という締め切りを作ることで、仕事を集中して片付けられるという効果もあります。遅くまで会社に残って仕事を続けるというのは、ある意味では楽です。しかしそれをしないようにする、要はメリハリを付けることが大事だと考えています。

――ダラダラと働かない、オン/オフの切り替えは重要ですよね。では、週末や完全にオフの日はどのように過ごされていますか?

川崎:週末は、意識的にネットから離れるようにしています。私は基本的にネットが大好きですから、意識しないとずっと見てしまうんですよね。しかし、それでは「普通の人の感覚」を見失ってしまうのでは、と思うのです。

仕事で訪問する企業には、本当にいろいろな方がいます。提案する立場である私も、いろいろな視点を持っているべきですよね。ですから、ネットから離れるだけでなく、例えば妻のママ友と公園で話すなど、普段はあまりネットに触れていない人とのコミュニケーションも大事にしています。ネットからは得られないアイデアをもらえることもあるんですよ。


目黒川に近いオフィスの一室からは、子どもたちの声がよく響いていました。川崎さんが手にしているのは、はてなブックマークのノベルティグッズです

――最後に、はてなの今後の方向性や未来について教えてください。

川崎:これまでのはてなは、比較的ITリテラシーや情報感度の高い人たちに使いやすい道具を提供し、それらを進化させていくというのが基本路線でした。ところが2008年、任天堂さんと一緒に「うごメモはてな」をスタートさせたことで、大きな転機が訪れたと感じています。

「うごメモ」は1日に1万枚以上投稿されますが、それらを投稿してくれるのは主に小中学生。彼らはITリテラシーが高いかどうかではなく、それが「普通の感覚」として身についている世代です。はてなとしては、これまでのサービスをさらに進化させていくことももちろんなのですが、この新しいユーザーにどうやって価値を提供していくのかという点にも取り組んでいく必要があると感じています。

――本日はありがとうございました。


2008年12月に公開され、任天堂との協業で話題を呼んだ「うごメモはてな」。ニンテンドーDSiの無料ソフト「うごメモ」で描かれたパラパラマンガ風の作品を投稿できるサービスで、新しいユーザー層の獲得に成功しています。2009年8月には、英語など5ヵ国語に対応した北米版と欧州版も公開されました
うごメモはてな


 日本発のユニークなサービスを日々生み出し続ける「はてな」。企業として成長し、多彩なサービスを抱えるようになったゆえに、今、1つの転換期を迎えているようです。はてなブックマークをはじめとしたITを駆使する一方で、非ITの感性も大事にする川崎さんの姿勢は、そのような転換期においてとても重要な考え方だと感じました。次はどのような面白いことを見せてくれるのか、今後のはてなに期待したいと思います。

※1:Googleリーダー(グーグルリーダー)
Googleが提供するRSSリーダー。Webサービス型のRSSリーダーとしては、ライブドアの「livedoor Reader」と並んで人気が高い。
Googleリーダー
※2:Tumblr(タンブラー)
ネット上のテキストや画像、動画のクリッピングに適したミニブログサービス。自分でクリップするだけでなく、ほかのTumblrユーザーを「フォロー」することで、それらのユーザーがクリップした情報を簡単に「リブログ」(自分のブログに転載)できるのが特徴。英語サービスのみ(無料)。
Tumblr
※3:ソーシャルメディア疲れ
SNSやブログを通じてネット上の交友関係が増えるほど、「日記に面白いコメントを書かなければ」「今日もブログを更新しなければ」という責任感や義務感で疲れてしまうこと。