皆さんこんにちは。できる編集部の井上薫です。今週も月曜日になりましたが、会社に行くのはダルいですね。締め切りに追われたり、上司に怒られたり...。このストレス社会では、心に余裕をもって過ごすのはなかなか難しいと思いませんか?

そんな生活の中で気になるのが、「マインドフルネス」。Apple社の元CEO スティーブ・ジョブズ氏が実践していたことでも有名です。また、Google社では社内教育の一環としてマインドフルネスを導入しているそうです。

では、マインドフルネスとはいったい何ぞや?

ということで2016年10月14日発売した「『あるある』で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)」の著者である川野泰周さんにお話を伺います。

禅僧・精神科医の川野泰周さんに聴く「マインドフルネスとは」

川野 皆さんはじめまして、川野と申します。禅宗である臨済宗建長寺派林香寺の住職であり、精神科医としてクリニックで診療もしています。変わり者の私ですが、マインドフルネスについてお話しようかと思います。

―― マインドフルネスという言葉はよく目にしますが、その実態はわかりにくいですね。まずは概要から説明をお願いします。

川野 マインドフルネスには禅と医学の2つの側面があって、両面を知ると、マインドフルネスの意義や、なぜ今流行っているのかが分かります。今回は、禅の側面からお話ししましょう。

下の図は「八支正道」(はっししょうどう)という、ブッダが教えてくれた人間の正しい生き方を実践するための8つの方法です。「八支のうち1つでも実践すれば、残りの7つの精神もおのずと動きはじめる」というイメージです。

この中の「正念」(しょうねん)。つまり「正しく意識する」ことが、マインドフルネスにあたると言われています。

過去や未来ではなく「今」に集中する!

―― 正しく意識するとは、具体的に言うと、どういうことですか?

川野今この瞬間に、価値判断をすることなく注意を向ける」ということですね。もっと端的に言うと、「今ここに集中する」ということになります。

思い返すとイライラや不安のタネは、「今、目の前で起きていること」ではなく未来や過去のことではないでしょうか。

過去には絶対に戻れませんし、未来は誰にも分かりません。私たちは、自分の思い通りにいかないことにストレスを感じてしまいます。

―― たしかに! 過去や未来のことは、今どうにもできないからこそ延々と気になってしまう、ということもありますね。今度ストレスを感じたら、「過去案件」か「未来案件」か振り分けてみます。

川野 いいですね。そうしてストレスの原因を俯瞰できたら、「今」に意識を戻してみてください。負のスパイラルから抜け出せますよ。

「今ここに集中」することは、日本の文化にもともと根付いています。茶道や華道、書道、剣道など「道」が付く文化は禅の思想が元になっていますが、目の前にある1つ1つの動作に集中し、道を究めていきますね。

―― 集中することが、マインドフルネスにつながるんですね。

川野 端的に言えば、そういうことです。「瞑想」もその方法の1つですね。瞑想については、また機会を改めて詳しくお話しましょう。

―― ところで、日本人の根底にある禅の精神が、今なぜ欧米から逆輸入されてきたのでしょうか?

川野 スティーブ・ジョブズ氏が禅に傾倒していたことは有名ですね。IT時代の到来に急激な情報量の増加や成果主義の社会構造、増え続けるテロや戦争、先行きの見えない将来など、現代はある意味で異常事態でしょう。

米国マサチューセッツ大学医学大学院の名誉教授であるジョン・カバットジン博士が医療として、禅から宗教的要素をそぎ落とした考え方を心の治療として導入したことがきっかけで世界中に広まりました。

そして、日本に禅がルーツとなったマインドフルネスが逆輸入されたのです。

―― 日本人が忘れかけていた頃にやってきた、日本人に染みつく禅の精神! それがマインドフルネスなんですね。

次回予告
引き続き、川野さんに「医学から見たマインドフルネス」についてお話しを伺います。

川野泰周(かわのたいしゅう)さん
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業後、精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行、2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で、うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療にあたっている。