こんにちは! できる編集部の井上薫です。NHKで放映中の「お母さん、娘をやめていいですか?」というドラマも話題になっていますね。わたしの友人にも「親のことが好きではない」と悩んでいる人は少なからずいます。

今回は、おなじみ住職で精神科医で、書籍「『あるある』で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)」の著者でもある川野泰周さんに、家族とのわだかまりについてお話しいただきました。

近い存在であるがゆえに悩んでしまう

――「私に頼ってくる母の気持ちが重い」「父親に仕事を反対され、今でもわだかまりがある」など、家族との愛情関係に悩んでいる人は多いですよね。今回はそんな家族とビミョ~な関係について、お話をお伺いしたいです。

川野 親は離れていようが、同居していようが近すぎる存在です。そのため、かえってお互いの関係性に気付かなく、ぎくしゃくしてしまいます。

人間はうれしかったことや楽しかったことよりも、つらかったこと悲しかったことの方が心に残りやすい性質をもっています。

――たしかに! つらい出来事はふとした瞬間に思い出してしまいます。

川野 「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)という疾患はあっても、「心的外傷後よろこび障害」という疾患はありません。ということは、親との関係性に悩む人は、ネガティブな出来事が誇張され心に残っている可能性が考えられます。

――では、親との嫌な思い出ばかり誇張されたときは、どう対処すればいいのでしょうか。

川野 もし、親からひどいことばかりされたと考えるなら、あえて「親からされたうれしかったこと」を思い出すように務めてください。

――うれしい思い出も誇張するんですね!

川野 私の知り合いに、こんな女性がいました。学校の成績が優秀でもっと勉強をしたかったのですが、父親からひどいことを言われ、中学卒業と同時に働くように命じられました。

ずっとそのことが心にひっかかっていたのですが、40代半ば過ぎた頃に自分の心と向き合うことに決めたのです。そこで、うれしかったことを思い出すように努めました。

――思い出せたんですか?

川野 彼女は「父親との間に良い思い出などない」とかたくなに思い込んでいたのですが、心を落ち着かせて考えてみると、18歳のときに父親から口紅をプレゼントされたことを思い出したのです。同時にうれしかった気持ちも沸き上がりました。

ずっと失念していた出来事を思い出すことで、長年感じていた父親へのわだかまりが薄れていったそうです。

人は一面ではない

川野 ここで大切なのは、彼女は父親との記憶をさかのぼることで、「自分を支配する」一面だけではなく「自分を大切に思ってくれている」一面に気付いたのです。

――人は一面ではないですもんね。

川野 そうなんです。いろんな一面を知ることで、つらかった思い出だけが誇張されることはなくなります。家族でわだかまりを感じたときは、事実からその人のいろんな面を見つけてみましょう。

――親との関係に限ったことではなく、人との関係で大切なことですね。ありがとうございます。

川野泰周(かわのたいしゅう)さん
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業後、精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行、2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で、うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療にあたっている。
著書「『あるある』で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)」。