10年後に起こるかもしれない変化に備える

私たちの暮らしや仕事は、短い期間で大きく変化しています。例えばスマートフォンは、10年前にはほとんど普及していませんでした。日本で初めてiPhoneが発売されたのは、わずか9年前。2008年のことです。

今から10年後の2027年ごろ、私たちはまだ見たこともないものを食べ、聞いたこともない仕事をしているかもしれません。「人工知能」や「ビットコイン」など、現在話題の技術は当たり前になり、それを基盤にした新しい働き方が生まれていることでしょう。

現在動き出している新ビジネスから、少し先の社会と働き方の変化を見通す『10年後の働き方 「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ』(2017年7月14日発売)の著者である、未来予報株式会社の曽我浩太郎氏と宮川麻衣子氏に、変化の見極め方と備え方について聞きました。

未来予報株式会社
曽我浩太郎氏、宮川麻衣子氏の2人により2016年に設立。「まだ世の中にないモノやサービスを一緒に育てる」をコンセプトに、製品のリサーチ、コンセプト設計、ブランディングを専門に行う。
2016年より、米国で毎年3月に開催されるビジネスイベント「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)本部から日本で唯一のSXSW Consultants(公式コンサルタント)に任命。SXSWの普及活動を担っている。


「コオロギは未来の寿司だ」!?

――『10年後の働き方』では農業、交通、医療などさまざまな業界の変わった新ビジネスが紹介されていますが、冒頭の冒頭に登場する人工口の肉「培養肉」から、大きなインパクトがありました。

多くの人は「食料危機を救うため、人工的に作られた肉が登場する」と聞かされても、食べたくないよと思いそうです。そこに新しい仕事が生まれるチャンスもある、ということですが...。

2013年にオランダ・マーストリヒト大学で作られた培養肉。研究費込みで3,500万円の培養肉ハンバーガーとなった。(撮影:David Parry/PA Wire)

曽我:「食べたくない」は、現時点の普通の反応だと思います。ですが、現在の農業技術と地球環境では、今以上に増える世界の人口を支えるタンパク源を生産しきれないという見通しがあり、きわめて低い環境負荷で生産できる培養肉が期待されています。

また、高い栄養価や、動物を傷つけないことも利点です。受け入れられる理由は十分にあり、時間はかかるかもしれませんが、普及していくだろうと考えています。それに、味や調理方法も徐々に改善されていくでしょう。

宮川:新しい食品の普及については、アメリカの「ビッティフード」(Bitty Foods)という昆虫食のスタートアップ(急成長を目指す新興企業)のCEOがおもしろい発言をしています。

彼らは食用のコオロギをパウダー状にして養殖して販売していますが、コオロギの普及について「コオロギは未来の寿司だ」と語っていたことがあります。

――それは、どういうことでしょう? 未来の寿司がコオロギになる...?

宮川:日本人の感覚では、ちょっとわかりにくいですね(笑)。もともと欧米では魚を生で食べる習慣がありませんでしたが、寿司が普及した影響で、今の40代以下ぐらいの人たちは魚の生食に抵抗がないそうです。

そのように食文化は変わる。だから、未来では今の寿司のように、コオロギが当たり前に食べられるのではないか、ということです。実際にコオロギなどの昆虫も、未来の食品として注目されています。

――なるほど。確かに食文化は変わっていきますね。それに、頭の中で考えた結論は「ノー」でも、目の前に実際の料理が現れて、友達や家族がおいしそうに食べていたら、まったく印象は変わるかもしれません。

曽我:私たちの想像力には限界があるので、培養肉のように想像を超えたことを急に言われても、受け止めきれないのだと思います。結果、拒否感が先に生まれがちです。

例えばiPhoneが発表されたときも、今のように普及するとは、誰もが想像できたわけではありません。でも実際に世に出たら、多くの人にとって手放せないものになりました。私たちは、培養肉もiPhoneのように未来を大きく変える可能性を持つと考えて、注目しています。

ほかにも、今ある課題を、普通の人ではちょっと想像できないような意外なアプローチで解決しようとしている起業家が世界中にいます。彼らのビジョンを集めて「未来はこうなるかもしれない。こういう働き方が生まれるかもしれない」と紹介したくて、このたび本を書いたのです。

曽我浩太郎(そが こうたろう)氏
未来予報株式会社 代表取締役/プロジェクトデザイナー
広告制作会社にてコンテンツ制作から経営企画まで経験。クリエイター向けのシェアリングサービスを立ち上げ後に退職し、2016年に未来予報株式会社を設立。2013年よりSXSW、SXSW Ecoに参加。SXSW公式コンサルタント。

予測を「当てる」よりも「可能性に備える」ことが大切

――『10年後の働き方』には、培養肉関連のほかにも多くの新しい働き方の可能性が描かれています。しかし、これらの働き方が本当に生まれるか? は重視していないとのことですね。「当たらなくてもいい」と言うと驚かれそうですが、この趣旨を詳しくお話しください。

宮川:もちろん、適当なことを言っているわけではありません。ただ、私たちが未来の話をするときは「予測が当たるか?」よりも、「こうなるかもしれない」という可能性を知って、自分がどうするかを考え、行動することに意味があると考えています。

天気予報も必ずしも当たるわけではありませんが、「雨の可能性を知って備えられる」ことに意味がありますよね。私たちの未来予報も、例えば「培養肉というものが登場するかもしれない」と知ったら、「培養肉ができる仕組みを知りたい」とか「培養肉の食べ方を考えてみよう」とか、自分なりの備え方を考えてみてほしいです。

予報は、結果的にははずれるかもしれません。でも、予報を受けて私たちが備えたことは、確実に未来を変えることにつながると思います。

――「予報」という情報そのものではなく、それ受けてそれぞれの人が何をするかが重要だということですね。

宮川:そうです。未来の可能性には、必ずいい面も悪い面もあります。でも、それを踏まえて自分がどう変わるか? がいちばん大切だと思います。

宮川麻衣子(みやがわ まいこ)氏
未来予報株式会社 代表取締役/コンテンツストラテジスト
広告制作会社にてコンテンツ制作から研究開発まで経験。事業開発部門で新規事業を立ち上げ後に退職し、未来予報株式会社を設立。2012年よりSXSWに参加し、SXSW分析レポートの発信やブランディング活動を行う。SXSW公式コンサルタント。

未来に触れるのは、キーワードを知ることから

――未来の予報に対して、私たちは何から行動を始めたらいいでしょうか? 例えば培養肉に興味を持ったら...?

曽我:残念ながら、培養肉はまだかなり狭い範囲で研究されているだけで、一般の人が直接関わることは難しいです。まずはキーワードを知って、情報を集めることが第一歩となると思います。

培養肉のほか、人工のミルクや卵白を開発研究している「ニューハーベスト」(New Harvest)。サイトで活動が紹介されている。

――WebやSNSで情報を集めるときに、キーワードは重要ですね。

曽我:最近では、ファブスペース(工作機械などを利用できる「物作り」のためのスペース)でバイオテクノロジー系の勉強会や、ツールを自作しバイオテクノロジー関連の実験をするようなイベントも行われています。

また、夏休み期間には、各地の科学館などがバイオテクノロジー系の体験イベントを行っていることもあります。近くにそのような場所があるか、探してみてもいいですね。

宮川:料理の研究をしたり、食品のマーケティングについて勉強したりすることも、新しい食品に関わる仕事につながると思います。今現在「食」に直接関わっていなくても、今持っているスキルを生かして業界の壁を越えた仕事のできる機会が、これからはどんどん増えていくはずです!

――なるほど。関わり方は多様にありますね。しかし、毎日を忙しく過ごしていると、未来の変化を感じ取ったり、どうしていくか考えたりする余力がなかなか出ないこともあると思います。何かコツはありますか?

曽我:小さなことでも構わないので、意識的に自分を変え続けることかなと思います。例えば図書館で本を1冊借りるとか、そうしたことを毎日でも週に1回でもいいので続けることですね。

宮川:多くの人の考えに触れて、想像の範囲を広げることも大事です。私たちにとってはSXSWなどに毎年参加していることが、本当に大きな刺激になっています。

人は自分の考えを折られてしまうと委縮して絶望してしまうと思いますが、世界の広さを感じて、今自分のいる世界がすべてではないと知ることで、簡単に折られてしまうことがなくなりました。

「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)は、米テキサス州オースティンで毎年3月に開催される世界最大級のビジネスイベント。2007年にTwitterのブレイクのきっかけとなったことなどでも知られる。未来予報株式会社はSXSWの公式コンサルタントとしても活動している。

「仕事以外の何か」に本気で取り組んでみてほしい

宮川:あとは、仕事以外のことを何か始めてみてください。私たちは未来予報の活動を、最初は本業を持ちながらの「放課後活動」として始めました。同時に、曽我はエンジニアを中心としたコミュニティ「コード・フォー・ジャパン」(Code for Japan)の立ち上げに携わっていたり、私は英会話学習アプリの開発に協力したりと、個人でも過去にさまざまな活動をしていますきました。

こうした活動は、やるなら必ず仕事以上に本気で! 本業ではないから...と変に線引きをしてしまうと、その範囲内の結果しか得られません。限度を取り払ってやることで、本当に価値のある出会いや経験ができると思います。

曽我:とことん議論できるパートナーを見つけることも大事だと思います。私たちはとことん考え、話し合わないと気が済まないため、しょっちゅう口論もしています(笑)。変化を続けていくにはいつも考え続けることが大事だと思いますが、1人ではここまで続けてこられなかったかもしれません。

「仕事以外のことを、本気で」というのも、人とのつながりを作ることの意義が大きいと言えますね。


大量の情報が流通する一方、日常的な接点のない情報は意外と手に入れにくいのが、今の時代の特徴です。未来予報株式会社は、そうした日常に刺激を与える情報発信を行っています。

少し視野を広げて将来のことを考えてみようと思ったら、未来予報株式会社のサイトや、SNSのアカウントを覗いてみてください。視野を広げることを助ける情報が、必ず見つかります。

10年後の働き方 「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ(できるビジネス)

10年後の働き方 「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ(できるビジネス)
  • 未来予報株式会社(曽我浩太郎・宮川麻衣子)
  • 定価:本体1,500円+税

聞き手・構成:山田貞幸(できる編集部)

▼インタビュー後編

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高齢者の介護は深刻な問題ですが、アメリカでは「介護が大変ならば要介護でない人を増やせばいい」という発想のサービスが登場しています。この発想は無茶? それとも未来への価値ある提案でしょうか?