デジタルマーケティングとSNS

デジタルマーケティングでのSNSの位置付けを理解する

ユーザーを「行動」に導くメディア戦略が重要

ここからは Instagramマーケティングで何ができるか、どのような目的の設定や施策が可能かを解説します。はじめに、インターネットでのユーザー行動を「A ISAS」(アイサ ス)モデルで確認します。インターネットで商品を「認知」し「興味」を持ったユーザーは、「検索」などで情報収集し、十分な理解や納得ができたら、購入やサービス利用といった「行動」に至る。そして、SNSなどで商品の感想を「共有」する、というものです。

SNSのユーザーは、次ページの例のように商品を「認知」し、やがて「行動」に至り、商品を気に入れば「共有」も行います。これはほんの一例にすぎませんが、ユーザーとして同様の行動をした経験のある人は多いはずです。

AISASモデルを企業の視点から見ると、商品を販売し続けるためには、まずユーザーに商品を「認知」してもらわなければ始まらないことがわかります。そのうえで「関心」を持ち、理解して購入(行動)してもらうことが必要です。

ユーザーの「行動」が、企業が成果を得てビジネスのゴールに至る「コンバージョン」となります。コンバージョンのため、企業はユーザーの「認知」から「行動」までの道筋を作るメディア戦略を考えることになります。

メディアにはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌から街頭のポスターやチラシなど、さまざまなものがありますが、現代ではウェブメディア、特に利用の伸びが著しいスマートフォン向けのメディアを、どのように活用するかがカギとなります。AISASに続けて、ウェブメディアの特徴を、さらに詳しく見ていきましょう。

ユーザー行動モデル「AISAS」

AISASモデルのユーザー行動の例

ウェブのトリプルメディア

ウェブメディアでのマーケティング戦略を考えるときには、「トリプルメディア」という概念を頭に入れておく必要があります。トリプルメディアとは、性質の異なる3種類のメディア「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」のことです。

インターネットの初期からあったペイドメディア、オウンドメディアに、SNSの流行で存在感を増したアーンドメディアが加わり、トリプルメディアと見なされるようになっています。

それぞれのメディアは、AISASモデルの異なる段階でユーザーに影響を及ぼすことができます。ユーザーにメディアと接触してもらうための集客方法が異なる点にも注目してください。

ペイドメディア

広告など、企業が料金を支払って利用できるメディアです。メディアが集客し、企業は料金を支払うことで自由なメッセージを発信できます。

ユーザーの「認知」の獲得や、セールなどで「行動」を促すサイトへの誘導に向き、費用をかけることによって短期間で大きな成果を出すことが可能です。

オウンドメディア

企業の自社サイトなど、企業が所有しているメディアです。企業は特別に料金を支払うことなく自由なメッセージを発信できますが、集客も自社で行う必要があります。

すでに商品を認知して情報収集のため「検索」しているユーザーや、問題の解決方法を検索しているユーザーに向けて情報を発信し、「認知」から「検索」段階のユーザーに働きかけることができます。

成果を出すには、ペイドメディアとは異なり時間をかけて地道にメディアを育てる取り組みが求められます。

アーンドメディア

信用や評価を獲得するメディアのことです。SNSなどユーザー自身やユーザーが作成したコンテンツが主役となる場を指し、企業も1ユーザーとして発信やコミュニケーションを行うことになります。人気のサービスには多くのユーザーが集まっていますが、企業のメッセージを届けるには、サービスに合った工夫が必要です。

一般的なSNSは企業が情報を発信し、ユーザーとコミュニケーションすることで「認知」から「行動」の手前までの道筋を作ることができます。また、ユーザーの投稿がクチコミ情報として「共有」され、新しいユーザーの「認知」を獲得したり、 「検索」するユーザーに情報を提供したりすることもあります。

SNSで自社のブランドや商品に関する投稿が増えることで、「行動」以外の各段階にいるユーザーに影響を与えることが期待できます。

アーンドメディアがほかの2メディアとは異なる点として、企業が情報をコントロールできる範囲が狭いことがあります。

ペイドメディアとオウンドメディアは、企業が主導して、どのようなコンテンツを、いつ、どこに載せるのかを決められます。アーンドメディアでも企業からの発信としては同じことができますが、ユーザーからの発信はコントロールできません。

企業のアカウントも1ユーザーにすぎないので、メディアを支配する主役は圧倒的に多い一般のユーザーになります。アーンドメディアにおいて企業が成果を出すには、主役であるユーザーの属性や行動、価値観、メディアの文化などをよく知って、適切なコミュニケーションを取ることが必要です。

トリプルメディアの特徴

ユーザーが集まるアーンドメディアの活用が重要

本書のテーマである Instagramは、近年もっとも勢いのあるアーンドメディアと言えます。しかしなぜ、企業は情報をコントロールしにくいアーンドメディアでの活動に注力する必要があるのでしょうか?

それには「アーンドメディアにユーザーが集まっているから」というシンプルな理由があります。各種調査でスマートフォンとSNSの利用者が増え、SNSの滞在時間が伸びているという結果が発表されており、2014年11月に総務省などが行った「平成26年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、全年代のSNS利用率は約62%、SNS利用者の平日における平均利用時間は約70分でした(このときの調査対象のSNSに Instagramは含まれていません)。若い世代ほど、これらの数値は高くなっています。

また米国では、「ミレニアル世代」と呼ばれる1980年代中盤~2000年代初頭に生まれた若い世代に従来型の広告を嫌う傾向が顕著になってきており、新しい宣伝手法が求められています。そのために、ペイドメディアではなく、拡散効果の高いアーンドメディアの重要性が増してきています。

日本でも若い世代ほど同様の傾向が見られ、若年層にリーチするためのアーンドメディアの活用は、マーケティングにおける非常に重要なテーマとなっているのです。

AISASモデルの各段階での接触で考えても、下図のようにアーンドメディアの影響力は大きくなっています。リアルタイムで「生」の情報を求める傾向が強い若年層は、Googleなどのウェブ検索よりも使い慣れたSNSでの検索で情報を求める傾向もあります。

ユーザーがSNSで検索したときに自社ブランドに関する情報がいつでも見つけられること、そのために自社ブランドに関する投稿が数多くされる状態を作ることは、これからのマーケティングにおける重要な課題の1つとなっています。

AISASモデルの各段階におけるトリプルメディアの影響の例