こんにちは、できる編集部の井上薫です。私は重度の肩こり持ちと自負していまして、今日も体調が優れず気分はいまいち...。そこで身体的な悩みを相談しました。
教えていただくのは、本連載でおなじみ「『あるある』で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)」の著者であり、住職で精神科医の川野泰周さんです。
肩こりがつらいとき、呼吸瞑想よりも効果的な方法とは!?
――川野先生、お久しぶりです! 最近ずっと肩こりが辛くて、心もいつも以上に集中できなくなっています...。マインドフルネスで解決できることはありませんか?
「マインドフルネス低減法」を提唱して社会と医療の現場にマインドフルネスを広めたジョン・カバット・ジンという博士がいます。彼は、もともと体の痛みを軽減させる目的で「マインドフルネス低減法」を開発したんですよ。
――そうだったんですか! どんな効果があったんですか?
彼は、1985年に90人の慢性疼痛患者に対して8週間のマインドフルネスプログラムを行いました。その結果、ほとんどの人の身体的な痛みが、その後の15カ月にわたって軽減したといいます。対して神経ブロックや理学療法、抗うつ薬を投与された患者には目立った効果は見られなかったそうです。
――具体的なプログラムは何でしょう? やっぱり瞑想をするんですか?
この連載で紹介した呼吸瞑想や食べる瞑想もマインドフルネスプログラムに入っています。体に痛みが生じると、人間はその痛みを和らげようとして無理に力を入れたり、ときには気持ちでカバーしたりします。こういった反応を繰り返すと次第に私たちのエネルギーは消耗し、心も不快な状況に陥ります。
マインドフルネスでは自分の中から湧き上がる感情をいったん切り離すことを教えていますが、そうすることで痛みが少しずつ弱まっていくのです。私たちが体に感じている痛みは感情によって増幅されているからです。
――でも、今は肩がものすごく痛くて、呼吸瞑想をしていてもなかなか感情を切り離せません...!
肩凝りに悩んでいる人には、ただ座っている呼吸瞑想よりも、動きながらできるヨーガをおすすめします。一般には「ヨガ」と呼ばれることが多いですが、「ヨーガ」のほうが本来の発音に近い言い方です。
――ヨーガ! 禅だけではなくヨーガにもお詳しいんですね。
ヨーガは、今から実に4,500年前のインダス文明に発祥を有する修行法で、坐禅の起源と考えられているんです。坐禅に対し、ヨーガは「動禅」(どうぜん)と言われることもあります。
「アーサナ」と呼ばれる特有のポーズを体現し、それに呼吸を合わせることに注意を向けることで集中していきます。同時に、体のこりをほぐす効果もありますよ。
それでは、肩凝り・腰痛・頭痛に効く「鷲のポーズ」を紹介しましょう。
「鷲のポーズ」で動きに集中する
ヨーガの「鷲のポーズ」は、肩と首や背中を覆う僧帽筋(そうぼうきん)をはじめとした肩甲骨周りの筋肉をストレッチすることで、肩や首のこりをほぐします。肩凝りや緊張性頭痛などに効果があります。
心地よさや楽しさを感じながら無理なく行うことが肝要です。ここでは床に座ったイラストで解説しますが、椅子に座りながらでもできるので、肩や腰がつらいときに職場でやってみてください。
1ひじを交差する
まず、両腕を斜め前に出してひじ同士を交差させます。しっかりとクロスさせましょう。このとき、手のひらは外側を向きます。
2前腕を交差し、手のひらを合わせる
ひじを90度上に曲げ、さらに前腕を交差させて、両手の手のひらを合わせます。届かないようであれば、前腕は交差せず、手の甲を合わせても大丈夫です。
3息を吸いながら腕を持ち上げる
息を吸いながら、ひじから手先を天井へ持ち上げます。肩甲骨の下側の筋肉が、伸びている感覚が分かります。ポイントは、背筋を伸ばし肩の位置をすくめないことです。
4息を吐きながら腕を下ろす
息を吐きながら、背骨を1段階ずつ丸めるようにして腕を下げ、おへそを見るようにします。このとき肩甲骨の伸縮が感じられると思います。呼吸のリズムとともに3、4を繰り返しましょう。
大切なことは、ヨーガは動く禅であり、動くマインドフルネスであるということ。ポージングに集中して雑念の入る余地をなくすことが、最大の効果を引き出す秘訣です。
そして、「動きと呼吸を合わせる」ことも大切です。ストレッチや体操に呼吸瞑想の要素を盛り込んだのがヨーガだと捉えられるかもしれません。
ポーズを決めようと力みすぎて息んでしまえば、呼吸はストップしてしまいますよね。そうではなく、無理のない範囲のポーズにとどめてもいいので、安らかな呼吸を保ちながら行うことが、ヨーガを有効に、楽しく実践するための重要なポイントなのです。
次回予告:
次回予告:苦手な人と同じプロジェクトになってしまった!
川野泰周(かわのたいしゅう)さん
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。
1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業後、精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行、2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で、うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療にあたっている。