CHAPTER 4-1
KGI/CSF/KPIの設定

個人と組織の方向性を一致させるKPIマネジメントの重要性

企業が組織として何を重視するのか? それを把握するためのKPIは、1人ひとりの社員に理解され、組織の方向性と一致してこそ意味がある。KGI、CSFとともに正しいKPIを導き出す、「KPIマネジメント」について理解しよう。

最強のデータ経営:個人と組織の方向性を一致させるKPIマネジメントの重要性

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本コンテンツは、インプレスの書籍『最強のデータ経営 個人と組織の力を引き出す究極のイノベーション「Domo」』を、著者の許諾のもとに無料公開したものです。記事一覧(目次)や「はじめに」「おわりに」は以下のリンクからご覧ください。
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適切なKPIの設定が組織全体の成長につながる

企業の業績管理は難しく、そもそも失敗することが多いのは世界共通の悩みだ。しかし、経営者や取締役、部門のリーダーが「今月はよかった」「この四半期はダメだった」などと結果しか見ていない発言をしていては、データ経営は到底実現できず、組織としても成長できないのは明らかだ。

CHAPTER 3-1で解説したDomo導入の初期プロジェクトにおいては、例えば「自社ECの日次・週次の予実」といった重要な指標をモニタリングできるようにすることの重要性を述べた。Domoを導入しても、使い勝手のよいレポーティングツールとして使うだけでは不十分だ。自社のビジネスの課題に答え、価値あるアクションを生む指標(=KPI)を追うことに意味がある。

そのためには、自社のKPIを経営者やマネジメント層が正しく設定し、全社的に周知した上で、常に把握できるようにしておく必要がある。それは事業や施策の善し悪しを判断するのはもちろん、データで行動する文化を社内に広く根付かせ、組織全体としてのパフォーマンスを向上させることもつながるだろう。

この節では、Domoの導入によって社内の個人と組織を育成し、その力を最大限に引き出しながら、企業としての競争力の獲得と持続的な成長を目指すためのポイントを見ていく。

KPIの周知は個人のモチベーションにも好影響

KPIを正しく設定し、それを活用して組織を効率的に運営する手法は「KPIマネジメント」と呼ばれる。これを実施する最大のメリットは、個人または個々のチームの活動と、組織全体の戦略の方向性をリンクさせることが可能になる点だ。

最強のデータ経営:個人と組織の方向性を一致させるKPIマネジメントの重要性

KPIマネジメントの重要性

また、KPIによって社員個人が自身の進捗や達成度を把握しやすくなることで、アクションをとるモチベーションがアップする。これは現場への権限委譲や、個人の能力開発が促進されることを意味する。

経営者やマネジメント層にとっても、「会社が何を大事だと考えているか」が社員に伝わりやすくなり、経営戦略や事業方針の改善を進めやすくなる。こうしたメリットの積み重ねにより、KPIマネジメントが組織全体の成長に結びつくという流れだ。

KGIとCSF、KPIの定義を振り返る

KPIマネジメントにはいくつかのポイントがあるが、まずは以下に図示した3つの用語の定義をあらためて整理しておきたい。

最強のデータ経営:個人と組織の方向性を一致させるKPIマネジメントの重要性

KGI/CSF/KPIの概念

KGI(重要目標達成指標)

組織のビジョンや大きな目標を定量的に計るための指標で、組織やプロジェクトの目標に対して「何をもって達成したのか」を明確にするもの。

CSF(重要成功要因)

KGIを達成するためにもっとも影響がある要因を指す。

KPI(重要業績評価指標)

KGIで定めた目標を達成するために重要な中間目標であり、それを定量的に計るための指標。

例えば、小売業でKGIを「年商5億円」と設定した場合、KPIには「来店者数」「購入者数」「客単価」などを具体的な数量として設定する。KGIとKPIは「定量的」な指標であることを忘れないようにしたい。

そして、この例でのCSFは、年商5億円を達成する上でもっとも影響力がある「事業や施策、取り組み」のことを指す。

KPIが「過程」を見るための指標であるのに対し、KGIは「結果」を見据えるためのものだ。CSFに経営資源を投入し、その過程をKPIで評価しつつ、結果的にKGIの達成を目指すのがKPIマネジメントの目的となる。

KPIの向上によってCSFは変化する

CSFとKPIの関係については、特に注意しておきたいことがある。それは「KPIが向上するとCSFは変化する」という点だ。

小売業の例を続けよう。来店者数の前年比+20%をKPIとして設定し、積極的なプロモーション施策を展開することにより(=CSF)、それを毎月達成できているとする。

来店者数が増えた結果、思惑通りに購入者数も増え、売り上げも順調に伸びていく。このまま年商5億円のKGIを達成できるかに見えた。

しかし、ある時期から売り上げが伸び悩むようになる。来店者数と購入者数は増えているが、実は客単価が大幅に下がっていたのだ。このとき、新たなボトルネックを解消すべく、単に来店させる施策から、店頭で併売を促すなどして客単価を上げる施策へと、CSFが変化することになる。

この場合、CSFの変化に伴い、KPIも客単価へと変更するのが適切だ。

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自社でコントロールできるのがKPIの絶対条件

KGIの過程にある定量的な指標のすべてを、KPIとして捉えてしまうのもありがちなミスだ。KGI達成の"鍵"となる、KPIとして設定すべき指標の特徴を紹介する。

CSFとリンクしている

CSFにより、KGIの中間目標を達成できているかを評価するのがKPIの役割だ。少なくとも1つのCSFと連動していなければ、KPIとは言えない。

非財務の指標である

KPIは、売上額など財務や金額に関係する指標以外であることが望ましい。金額をKPIにすると、つまりは結果を評価することになるからだ。KPIは過程を評価するための指標である。

計測頻度が高い

週次や日次、さらには24時間など、短い期間でモニタリングできる指標をKPIとして設定すべきだ。それだけ高速にPDCAサイクルを回すことが可能になる。

経営層が注目している

みなさんが部門長なら、CEOや取締役が普段から気にしている指標を、優先的にKPIとして選びたい。経営層からのバックアップが期待できるほか、現場のメンバーのモチベーションにもつながるだろう。

シンプルである

現場での取り組みやすさを考えると、単純明快な指標がKPIに向いている。例えば「月に2回以上来店する3人以上の家族の平均客単価」などと細かすぎる指標は避けたほうがよい。

チームの指標である

KPIは個人の目標ではなく、その個人が所属するチームの目標であるべきだ。また、複数のチームが関係する指標であるとよい。チームをまたがる指標は、異なるチーム間の協力を推進させるからだ。

適切なアクションがとられる

非財務にすることとも関係するが、KPIの達成がゴールとなってしまってはアクションが生まれない。KPI自身が目的化しないようにすべきだ。

自社でコントロールできる

最後に、自社がとったアクションによって数値をコントロールできることは、KPIの絶対条件だ。外部要因に大きく左右され、自分たちがどう動いても変えることができない指標は、KPIにすべきではない。また、GDPや消費者物価指数、為替レートなどのマクロ指標はKPIにはなりえない。

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KPIマネジメントを進める8つのステップ

ここまでを理解した上で、KPIマネジメントの流れを見ていこう。

1. マネジメント層のコミットメント

KPIマネジメントを実施し、ビジネスの管理方法を変革していくことを、全社または対象となる事業領域のトップマネジメント層がコミットする。

2. KPI計測責任者のアサイン

KPIマネジメントのプロジェクトをリードし、計測される指標の正しさに責任を持つメンバーをアサインする。

3. ゴールの明確化

ゴールとなるKGIと達成すべき目標値を明確化する。

4. マイルストーンの明確化

ゴールの達成に至るためのマイルストーンを明確化する。

5. 成果を生み出すプロセスの確認

成果創出までのプロセスを分解し、計測可能な指標を洗い出す。指標には数(案件数、問い合わせ数など)、率(プロセス間の転換率、契約率など)、期間(ある処理の開始から終了までの時間、在庫滞留時間など)、サイズ(平均案件規模など)といった複数の切り口があるため、何をどのような指標で計測できるのかまでを検討する。

6. CSFの検討とKPIの設定

5で確認したプロセスの中で、CSFとなるものを検討する。CSFがわからない場合は、計測可能な指標をひととおり継続的に捕捉し、現時点でボトルネックとなっているポイントを明確化した上で、CSFを特定する。また、CSFと関連する指標をKPIとして設定し、目標値となる具体的な数値に落とし込む。

7. 現場や関係者への周知

組織のCSFは何か、CSFを計測するKPIは何か、現場のメンバーは日々何に注力すべきか、どのような変化が期待されているのか、などをマネジメント層から現場に伝える。パフォーマンスの計測については感情的な反発も出やすいため、1つひとつ丁寧に説明して納得してもらう必要がある。

8. ダッシュボードの構築

KGIとKPI、そして今後KPIとなりうるプロセスの関連指標を含めてダッシュボードを構築する。ダッシュボード構築のポイントは、「指標に対してどのようなアクションをとるか」が明確になっていることだ。

こうしてKPIマネジメントを実施することで、個人と組織が目指すべき方向が一致する。そして、その実現手段としてDomoを導入・利用することで、新しいビジネス価値の創出につながっていくだろう。

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