Azure、次世代Office、Windows Liveに注目

 マイクロソフトは、クラウドコンピューティングに向けて「ソフトウェア+サービス」というコンセプトを打ち出しています。デバイス上で動くソフトウェアと、Webサービスを密に連携させ、両者の長所を生かすという考えです。

 下図の一番下にある全体を支えるOS「Windows Azure」の上で、さまざまなサービスを提供するためのアプリケーションが動いており、これらをサービスの基盤(プラットフォーム)として「Azure Service Platform」と呼びます。ここから提供されるのが、中央の「サービス」にあるサービス群です。

 そして、「サービス」の上にあるのが、私たちユーザーが触れるデバイスです。デバイスの中ではパソコンなら「WindowsVista」など、スマートフォンなら「Windows Mobile」といったOSが動作し、それぞれで「ソフトウェア+サービス」の「ソフトウェア」を利用します。

 次のページから1つひとつを詳しく紹介していきますが、特に注目したいポイントが3つあります。1つ目はクラウド用OS「Windows Azure」。2つ目は次世代Office「Microsoft Office 14(仮称)」。そして3つ目は、一般ユーザー向けのサービス「WindowsLive」とそのソフトウェア群です。

●マイクロソフトのクラウドコンピューティング関連製品群

クラウドサービスの基盤「Windows Azure」

 Windows Azureは、マイクロソフトが提供するサービス全体のOSとして、マイクロソフトが管理する「雲のようなサーバー」上で動作します。Windows Vistaなどのエンドユーザー向けOSとは異なり、Webサービスなどを開発するためのOSです。

 サーバー内ではWindows Liveなどのサービスを提供するためのアプリケーションが動いており、Windows Azureとこれらを含めた全体がAzure Service Platformです。

 2009年1月現在ではプレビュー版で、正式なサービスではありません。公開されれば、マイクロソフトのパートナーとなった開発者は、Azure Service Platformを利用してさまざまなWebサービスを開発できるようになります。

 Azure Service Platformの特長は、マイクロソフトが提供している開発環境「Visual Studio」や「.NET Framework」などと高い親和性を持っている点です。これまでマイクロソフト製のサーバーで運用していたソフトウェア資産を持つ企業や開発経験を持つ開発者が、クラウドのサービスを開発する際には、魅力的な選択肢となるでしょう。

Webサービスにもなる「Microsoft Office」

 Microsoft Officeは、文書、スプレッドシート、プレゼンテーションの編集機能を持つアプリケーション、いわゆるオフィススイートの中で圧倒的なシェアを持ちます。それに対抗するべく、GoogleドキュメントなどのWebサービス版オフィススイートが登場していますが、現在のところMicrosoft Officeのシェアを大きく奪うには至っていません。

 とはいえ、ソフトウェアがWebサービス化していく流れは着実に進行しています。「マイクロソフトも何らかの手を打つべきだろう」ーーそう見られていた矢先、次世代オフィススイート「Microsoft Office 14(仮称)」は一部機能をWebサービスとしても提供することが発表されました。正式なリリース時期は未定ですが、すでに注目が集まっています。

 また、Web上でWordやExcel、PowerPointの文書を閲覧・共有できるサービス「Microsoft Office Live Workspace」のベータ提供がすでに始まっています。

一般ユーザーへ猛アピール「Windows Live」

 Windows Liveはメールやオンラインストレージ、インスタントメッセンジャーなど、インターネットと連携して便利に使える機能をまとめたサービス群の総称です。

 Windows Liveのサイトからソフトウェアをインストールし、Webサービスと連携して利用することで、ブラウザーだけで利用する場合よりもリッチなインターフェースで操作できる「ソフトウェア+サービス」をもっとも手軽に体験できます。

 2008年末より、同社は「Windows Life Without Walls 壁のない世界へ」というコンセプトのもと、一般ユーザー向けのアピール戦略を展開しています。これはパソコン向けのWindows、スマートフォン向けのWindows Mobile、そしてWindows Liveという3つの「Windows」でデータをやりとりし、コミュニケーションの壁をなくそうというものです。

▼Windows Live on MSN
http://windowslive.jp.msn.com/

「世界最大のソフトウェア企業」の強みを生かす

 Windows Liveのソフトウェアには、Windows Vistaに付属する「Windowsフォトギャラリー」から進化した「Windows Liveフォトギャラリー」などがあります。ブラウザーで利用する場合、インターフェースはブラウザーが持つ表現力の範囲内で作る必要がありますが、専用ソフトを用意すれば、より使いやすいインターフェースやOSと深く連携した機能を提供できます。

 また、高い処理能力を実現しやすいのもソフトウェアの優位性です。動画や画像の加工など、高いCPUパワーが要求される処理をサーバーのみで行う場合、サーバーや回線に膨大な負荷がかかったり、タイムラグによって操作性が損なわれたりと、快適な作業環境を提供するのが難しくなります。しかしソフトウェアなら、デバイスの処理能力を用いることで効率的に作業できます。

 「ソフトウェア+サービス」により、私たちはソフトウェアの長所と、情報をサーバーに置くクラウドの長所の両方を享受できるようになります。Webに軸足があるGoogleとは違い、マイクロソフトはOSに軸足がある企業。「ソフトウェア+サービス」はマイクロソフトならではの、自社の強みを生かしたクラウドコンピューティングのスタイルだと言えるでしょう。

[ヒント]マイクロソフトのその他のWebサービス

マイクロソフトのWeb(オンライン)サービスの歴史は長く、1995年に現在も続くポータルサイト「MSN」を開始しています。2005年には、iGoogleに似たカスタマイズできるホームページ「Start.com」を実験的なサービスとしてスタートしました。しかし、2005年11月にオンラインサービスのブランドが「Live」(Microsoft Office Live やWindows Live)になったことでStart.comは終了し、現在では「My.live.com」として提供されています。

[ヒント]「Windows 7」で「ソフトウェア+サービス」が完成する

マイクロソフトはWindows Vistaの後継となる次世代OS「Windows 7」の準備を進めており、2009年1月にベータ版を公開しています。Windows 7ではWindows Liveとの連携機能を備えたソフトウェアが付属し、Windows 7がプリインストールされたパソコンを購入したら、すぐにWindows Liveの機能が使えるようになる予定です。

[ヒント]サーバー分野では既存の資産と開発者コミュニティが強い味方に

マイクロソフトのサーバーOS「Windows Server」はここ数年で急速にシェアを伸ばし、各種調査の結果ではLinuxとトップを争っています。Windows Server上で動作しているシステムをクラウド化するには、同じ技術が利用可能なAzure Service Platformがもっとも手堅い選択肢となるため、Azure Service Platformは後発ながら、すでに多数の潜在顧客・開発者を抱えていると言えます。