作業効率・売上アップのための各種サービスを提供

 マイクロソフトが提供するクラウドのビジネス向けサービスでもっとも気になるのは、Microsoft OfficeとMicrosoft Office Liveでしょう。ほかにも開発者向けのAzure Service Platformや「Microsoft Online Services」もありますが、前者はまだプレビュー版、後者は米国でのみ提供(2009年1月現在)となっているため、現在は利用できません。

 日本でも今すぐ、しかも無料で利用できるサービスとしては、「Microsoft Office Live Workspace」と「Microsoft Office Live Small Business」の2つがあります。まずは、これらの概要を紹介しましょう。そして、次世代OfficeとそのWebサービス版について考察していきます。

Office文書を共有する「Workspace」

 Microsoft Office Live Workspaceは、Microsoft Office(Word、Excel、PowerPoint)の文書をWebにアップロードし、ほかのユーザーと共有できるサービスです。Microsoft Officeからのファイル保存・読み込みを行うには、アドインソフトのインストールが必要になります。

 サークルの仲間、仕事のチームなどグループごとに「ワークスペース」を設定し、その中でOffice文書のほか、スケジュールやToDoなどの共有が行えます。ワークスペースには「就職活動」や「会議」といったテンプレートも用意されています。

 ただ、利用できるデバイスはパソコンのみとなり、モバイル端末をはじめとしたマルチデバイスへの対応は実現されていません。いわゆるクラウドコンピューティングのためのサービスかと言うと、少々機能不足の感があります。

▼Microsoft Office Live Workspace
http://workspace.officelive.com/

小規模事業をサポートする「Small Business」

 もう1つのMicrosoft Office Live Small Businessは、その名のとおり小規模な事業者向けのサービスです。自社のドメインでWebサイトを運営できるほか、社内での連絡・情報共有に役立つサービスがそろっています。さらに、顧客にメールを配信し反応を測定する「E-Mailマーケティング」、Webサイトの細かなアクセス解析を行う「レポート」などの機能も備えています。

 基本的には無料ですが、独自ドメインの運用は初年度のみ無料で以降は有料、E-Mailマーケティングも有料です。そのほか、ディスク容量の追加などの有料サービスも提供されています。

 こちらも利用できるデバイスはパソコンのみとなり、クラウドと言うには弱い印象があります。やはり本格的なサービスは次世代Office、そしてAzure Service Platformの登場を待つことになりそうです。

▼Microsoft Office Live Small Business
http://smallbusiness.officelive.com/

「ソフトウェア+サービス」へ進化するOffice

 次世代Officeでは、機能の一部がWebサービスとして提供され、Windows版ソフトウェアの次世代Office、Windows Mobile向けの「Office Mobile」、そしてWebサービス版のOfficeが連携する「ソフトウェア+サービス」の形へと進化します。

 マイクロソフトがクラウド時代のOfficeとして示したのは、次のような方向性です。これまでのMicrosoft Officeのユーザーには、「ソフトウェア+サービス」のうちソフトウェアを柱として提供し続け、Webサービスによる付加価値を新たに加えます。

 WebサービスのGoogleドキュメントがもてはやされていても、ソフトウェアであるMicrosoft Officeの編集機能は圧倒的に優れており、操作の快適さも違います。高度な機能を求めるユーザーは、今後も迷いなくMicrosoft Officeを選択するでしょう。

 一方で「Googleドキュメント程度の機能で十分」というユーザーには、現在のMicrosoft Office Live Workspaceに編集機能を加えたような形のサービスの登場が期待できるかもしれません。2009年1月現在ではWebサービス版の詳細は未定ですが、Office文書との互換性が高ければ、Googleドキュメントから乗り換える理由にもなりそうです。

課題は「セキュリティ」と「利便性の啓発」

 ただ、次世代Officeの普及には、2つの壁があると筆者は考えます。1つはセキュリティおよびコンプライアンスの問題です。

 Microsoft Officeで扱う文書には重要な文書が多く、それらを社外のサーバーに置くことは許されない、という企業も多いでしょう。マイクロソフトでは企業ユーザー向けのホスト型プログラムの提供(詳細は未定)が予定されており、これが十分に企業ユーザーの期待に応えられるかがカギを握ります。

 もう1つは、従来のビジネス習慣には「Webで文書を共有する」という概念がないことです。現在はメールにOffice文書を添付することで共有しているユーザーが多いと思われますが、これをWebサービスを利用した共有に切り替えようとしても、ピンとこない人が少なからず出てくるでしょう。一部の社員が興味を持っていても、チーム全員の足並みがそろわず利用できないといったケースも考えられ、Webサービスの利用を促すための、何かしらの働きかけが必要かもしれません。

 収益はソフトウェアで上げ、Webサービスはおまけなら、こうした働きかけは不要でしょう。しかし、Webサービスによりユーザーの生産性向上が期待でき、新たな収益源となる可能性があるなら、積極的な普及促進には大いに価値があるはずです。

[ヒント]Windows Liveと同じIDで利用できる

Microsoft Office Liveはビジネス向けのサービスですが、個人向けサービスのWindows Liveと同じIDで利用できます。いくつものIDを取得する必要がないので便利ではありますが、仕事とプライベートでIDを使い分けたい場合は、多少面倒な思いをすることもあります。別のIDで利用するにはいったんサインアウトし、サインイン画面で[別のアカウントでサインイン]をクリックします。

[ヒント]もう1つのビジネス向けサービス「Microsoft Online Services」

「Microsoft Exchange Online」「MicrosoftSharePoint Online」「Microsoft Office Communications Online」は「Microsoft Online Services」と呼ばれるサービス群のもので、日本ではまだ提供されていません(2009年上半期提供開始予定)。メッセージング、ドキュメント共有などの有料サービスで、企業向けの「ソフトウェア+サービス」の一翼を担います。

[ヒント]Office 2007や2003をMicrosoft Office Live Workspaceと連携

Microsoft Office 2007/2003/XPに「Office Liveアドイン」をインストールすると、Microsoft Office Live Workspaceへの文書保存・読み込みが可能になります。インストールは「Windows Liveおすすめパック」から行えます。

[ヒント]複数デバイスでファイル同期&リモートアクセスできる「Live Mesh」

マイクロソフトの「Live Mesh」は、WindowsパソコンやMac、スマートフォンなどの間でファイルの同期やリモートアクセスができる、大変魅力的でおもしろいサービスです。現在は英語のみのベータ版として提供されており、Windows Live IDがあれば日本からでも利用できます。Live Meshでは、利用登録をして専用ソフトをインストールしたパソコンと、サーバー上にある「Live Desktop」(最大5GBまで)の間で、特定のフォルダにあるファイルを同期します。例えば、自宅のデスクトップパソコンと持ち歩き用のネットブックの[ドキュメント]フォルダを同期する、といった使い方ができ、どちらでも常に最新の文書を利用できるようになります。また、専用ソフトをインストールしたパソコン同士で、簡単なリモートアクセス(手元のパソコンから別のパソコンを遠隔操作すること)も可能です。専用ソフトはWindows版以外にも、リモートアクセス機能のないMac版が用意されており、Windows Mobile版も予定されています。正式公開時にどのような形になるかは未定ですが、Live Meshという名前では世に出ず、WindowsLiveのサービスの1つとしてリリースされるかもしれません。

▼Live Mesh
http://mesh.com/