高度な活用・DX事例
LINE Frontliner 遠藤竜太×稲益 仁
LINEでユーザーに提供する、半歩先の販促・購買体験
デジタルマーケティングやECの変化、LINEを活用して販促と購買体験を向上させる方法、さらにはLINEが提供できる価値について、LINE Frontlinerの遠藤竜太氏、稲益仁氏に伺いました。
直近十数年におけるマーケティングとECの進化
──最初にお二人の経歴と業務領域についてご紹介ください。
遠藤 チャットコマース事業を展開する株式会社ZealsでCOO(最高執行責任者)をしています。チャットボットがユーザーの購買行動を促進したり、チャット内での決済を実現したりするほか、最近はオンライン、オフラインにおける施策の融合などにも取り組んでいます。
稲益 LINEを活用したマーケティング支援を専門に扱うDOTZ株式会社のCEO(最高経営責任者)を務めています。過去にはネット広告代理店で、LINE公式アカウントの導入支援を行っていました。他にもネット広告、マーケティングオートメーション、CRM(顧客関係管理)なども担当してきました。LINEは、認知、購買、サービス利用、CRMまで一気通貫した、いわゆる「フルファネル」のコミュニケーション設計ができるのが大きな強みです。
──お二人が業界で活躍されるこの十数年で、広告やデジタルマーケティング、ECはどう変化しましたか?
稲益 ネット広告でいえば、2000年代は特定の媒体に一定期間掲載するバナーなどの「純広告」が主流でした。しかし、スマートフォンの登場と4G回線の普及で、ユーザーの検索や購買行動が大きく変わりました。2010年代に入ると、通常のコンテンツのような見た目の広告「ネイティブアド」が普及しました。それまでのネット広告は派手で目につく、ユーザーにとってどちらかといえば煩わしかったものが、通常のコンテンツになじむようになったのは大きな変化でした。
遠藤 私が新卒で入社したのはアドテクノロジーの会社で、Web上での行動履歴をもとにユーザーに合わせて広告を出し分ける手法が加速していたときでした。2020年代に入ると、Cookie規制などによってユーザーの行動履歴を広告に使えなくなり、広告は再び変化の時を迎えています。
ECに関連したユーザーの行動変化としては、Googleが提唱した「パルス型消費行動」が示すように、従来、想定されていた認知や検討を含むカスタマージャーニーを飛び越えて、欲しい物を見つけたらすぐにスマホで購買行動を起こすタイプの消費が増えています。同時に、ユーザーの趣味嗜好は多様化しており、市場規模は小さくても確実にファンがいるのは、小規模事業者にとって好機といえます。
パルス型消費行動
24時間すべてが買い物のタイミングであり、空き時間にスマホを操作しながら瞬間的に買いたい気持ちになり、買いたい商品を発見し、その瞬間に買い物を終わらせるという消費行動を指す。
参考 Think with Google(2019)「データから見えた「パルス型」消費行動──瞬間的な購買行動が増えている: 買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(2)」
「半歩先の販促・購買体験」をLINEで実行するために
──新型コロナウイルス (Covid-19)の感染拡大で、従来当たり前とされてきた対面での商品購入やサービス体験などが大きな制限を受けています。こうした変化を経て、今お二人が考える「半歩先の販促・購買体験」について教えてください。
稲益 人々の購買行動が変わり、出かける前に目的のお店や商品を決める「計画購買」が増えています。情報収集の大半はオンラインで行われますから、ユーザーにWebで情報を届け、計画購買の選択肢に入れてもらうことが企業・店舗にとって重要です。
そこで、LINEミニアプリをオススメしたいと思います。LINEミニアプリには、ユーザーの購買行動の変化に合わせて、予約機能、テイクアウトの事前オーダー、会員証などの機能が多数用意されています。これらを使いこなすことが、ユーザーにとっての利便性向上という意味でも半歩先の販促・購買につながります。
遠藤 弊社で提供しているチャットコマースも、半歩先の施策だと考えています。例えば、アパレルや美容部員が店舗で行っている丁寧な接客をチャットで提供できれば、ユーザーの商品理解を深められることで購買を促進できます。さらに、決済まで完了できればユーザーの利便性は高まるでしょう。これは単にオンラインで「物を売る」ということではなく、「体験を売る」という意味合いです。
美容系の商品のチャットコマース例
診断を通じてユーザーの考えをヒアリング。
診断結果とオススメ商品を提案。
離脱したユーザーには後日、プッシュ配信。
──「半歩先の販促・購買体験」を実現するにあたり、LINE公式アカウント、LINE広告をはじめとする法人向けサービスが貢献できるポイントは何でしょうか?
遠藤 LINEは、集客、認知、購買、サービス利用、CRMまでオールインワンのフルファネルでカバーできますが、これは他のアプリやツールにはない大きな強みです。今やLINEは日本の人口の約70%※のユーザーが利用するコミュニケーションアプリですから、生活インフラの1つといっても過言ではありません。
従来、ユーザーの連絡先は、電話番号やメールアドレスが主流でしたが、これからはLINEのユーザーIDに変わっていくのではないかと思います。LINEは電話やメールよりも利便性が高いですし、決済処理もLINE、商品の発送通知もLINEというように、LINEのユーザーIDをもとにコミュニケーションを集約したほうが、よりよいCX(顧客体験)を提供できるでしょう。
小さな会社や店舗で、これまでユーザーの連絡先を収集していないというのであれば、これからはLINEでつながってユーザーとやりとりする方向にシフトしたほうがいいと思います。フルファネルのコミュニケーションができるところに、LINEの貢献ポイントがあります。
※ LINEの国内月間アクティブユーザー 8,900万人÷日本の総人口1億2,533万人(令和3年5月1日現在(確定値)総務省統計局)
──LINEで実現可能な「半歩先の販促・購買体験」のアイデアを教えてください。
稲益 今後、弊社で実現したいと考えているのは、LINEで完結するチャットコマースです。ECサイトの会員データとLINEアカウントの連携をすれば、ユーザーはECサイトにアクセスしなくても、LINE上で商品の購入や決済ができます。さらに、購入完了や商品発送の通知もLINEでメッセージ配信できるように、あるクライアント企業様と取り組んでいます。定期購入の仕組みを整え、注文商品の変更や配送の一時休止などの依頼もチャットで完結すれば、ユーザーの利便性は大きく向上します。
デジタル導入による省人化が進むと、雇用の維持について議論が起こりがちですが、そこも問題ありません。自動化されたチャットで対応できなかった問い合わせは、接客経験のあるスタッフをコールセンターに配置して担当します。店舗で培ったコミュニケーションスキルを生かして、ユーザーのニーズを聞き出して適切に案内できれば、顧客満足度のアップにつながるでしょう。
もう1つ、「LINEで応募」で取得したレシートデータの活用も、大きな可能性があります。プレゼント応募の際、購買証明となるレシートには、ユーザーがどの店で商品を買ったか、一緒に買った商品は何か、購入金額の総額はいくらか、といったさまざまな情報が含まれています。これらのデータとLINEのユーザーID、さらにアカウント連携でECサイトの会員データと連携できれば、オンライン、オフラインをまたいで、顧客理解を深めることができます。ここまでできている企業は多くありませんが、オンライン、オフラインのデータを融合して、ユーザーの行動を促すようなコミュニケーションができないか考えています。
シームレスな顧客体験を提供する方法
──今後「半歩先の販促・購買体験」を実現するにあたり、企業・店舗がクリアしなければいけない課題はありますか?
稲益 オンライン、オフラインを融合する場合、組織の構造が壁になることがあります。マーケティング部、EC事業部だけでなく、他の部署との連携が必須だからです。例えば、ECと店舗で共通利用できるポイントシステムを作るには、少なくとも店舗運営の部門やシステムを担当するIT部門と調整しなければいけません。
レシートを使った顧客管理でも、担当は営業部門なのか、販促部門なのか決める必要があります。施策の一環でLINEプロモーションスタンプに出稿する場合も、クリエイティブ制作はブランディング部門、実際に配信するのはEC部門というように、組織が大きいほど施策に関わる部署が増えます。また、部門ごとに予算管理をしているので、どこが費用負担するのかなどの課題も出てくるでしょう。
そうした縦割り構造を打破して、施策の実施に向けた調整が成功している企業に共通するのは、経営陣の理解があることです。社長直下の部署やチームを作り、組織を横断してプロジェクトを推進できれば、話が早く進みます。
遠藤 大きな絵を描ける人、そこに向かって推進する人が社内にいるかも大切です。デジタル化を推進し、得られたデータをもとにどのような顧客体験を提供したいのか、機能的な視点だけでなく、中長期にわたるビジョンを描けないと、「半歩先の販促・購買体験」は実現しません。
店舗型のビジネスでも、LINE公式アカウントを作成しただけでは、友だちはいつまで経っても増えないでしょう。まずはLINEでユーザーとつながる意味を理解して、来店した顧客には友だち追加してもらうように声がけを継続してほしいです。基本的なことを実行できるか、それらに率先して取り組める人材を育てられるかどうかが、ビジネス成長の明暗を分けます。
──企業の場合、旗振り役をするのはどういう部門が適任でしょうか?
遠藤 部門間を横断してやりとりをする必要があるので、多部署と連携する機会が多いマーケティング部門、データ戦略室、事業戦略室などが適していると思います。
──アフターコロナの世界で、販促・購買体験はどのような変化を遂げるでしょうか。また、そのときにLINEがどのような価値を持つか、展望をお聞かせください。
稲益 人間は一度便利な生活を覚えると元には戻れません。コロナ禍で定着したリモートワークや飲食のテイクアウトは、ある程度定着すると考えています。同時に、アフターコロナの世界でも、対人の接触を減らしたいと考える人は一定数いると思うので、目的なく外出する、街を歩きながら店を探すという行動も減ると想定しています。そうすると、企業・店舗による事前の情報発信がいっそう重要になるでしょう。
その上で、位置情報を活用したマーケティングも活発になると見込まれます。店舗にビーコンを設置して、半径数百メートルの人に情報を配信するといったアプローチも有効です。ユーザーの行動に合わせ、最適な情報を最適なタイミングで届けるコミュニケーションが主流になりそうです。
遠藤 コロナ禍で、オンラインショッピングを利用する人が増えました。家族の1人が店に商品を見に行って、帰ってきてから家族と相談して、最終的にオンラインで購入するような行動が、今後増えてくると思います。
また、店舗で接客を受けて化粧品を購入した人でも、同じ商品をリピートするのであれば、店舗に行かずともオンラインで購入できたほうが便利です。今後はこのような、オンラインもオフラインも使い分けるような、OMO(Online Merges with Offline:オンライン、オフラインの融合)が定着すると考えています。
LINEは国民的なコミュニケーションプラットフォームですから、OMOの旗振り役になると思いますし、オンライン、オフラインをつなぐ役割をLINEが担うのは自然です。今後、機能拡充もしてサービスがさらに充実していくと思いますので、大いに期待しています。
PROFILE
遠藤竜太 氏
LINE Frontliner
株式会社Zeals 取締役COO
国内最速の2016年よりチャットボット×マーケティング領域のサービス「チャットコマース Zeals」を開始。加藤浩次を起用したTV CMも放映し、大手企業を中心に400社以上のお客さまにサービス導入。京都大学大学院ヒューマンインターフェース論を修了しており、人と機械のインタラクティブなコミュニケーション設計に精通。現在は"チャットコマースを当たり前に"をテーマにLINEを基軸としたDX提案を実施。
稲益 仁 氏
LINE Frontliner
DOTZ株式会社 代表取締役社長
2006年大手ネット広告代理店に入社。全国の著名な通販企業を中心に担当。その後にLTVを最大化するためのCRM専門組織を設立し、局長に就任。多くのCRM施策を実行する中で、LINEビジネスコネクト(現LINE公式アカウント)と出会い、その驚異的効果から、CRMソリューションをLINEへ一本化。LINE専門部署を設立し広告取扱高を3年で10倍まで成長させた。2019年12月に同社を退社。2020年11月にLINE専門のマーケティング支援会社であるDOTZ株式会社を設立。
LINE公式アカウント
本コンテンツのご利用について
本コンテンツは、インプレスの書籍『はじめてでもできる! LINEビジネス活用公式ガイド』を、著者であるLINE株式会社の許諾のもとに無料公開したものです。各サービスの内容は、書籍発行時点(2021年11月)における情報に基づいています。記事一覧(目次)や「はじめに」は、以下の「関連まとめ記事」のリンクからご覧ください。