CHAPTER 1-1
データの爆発的増加

ビジネスの現場で増え続けるデータに企業はどう立ち向かうべきか

さまざまなシステムやツールに支えられる現代のビジネスでは、それらが蓄積するデータが「量」と「種類」の両面で増大し続けている。企業とデータの関係について、まずは背景を整理しておきたい。

最強のデータ経営:ビジネスの現場で増え続けるデータに企業はどう立ち向かうべきか

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本コンテンツは、インプレスの書籍『最強のデータ経営 個人と組織の力を引き出す究極のイノベーション「Domo」』を、著者の許諾のもとに無料公開したものです。記事一覧(目次)や「はじめに」「おわりに」は以下のリンクからご覧ください。
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全世界のデータ量は2020年には「44ZB」へ

ITを当たり前のように業務に取り入れるようになった現代。企業が扱うデータは年々増え続け、その傾向には拍車がかかっている。

2014年、米国のストレージベンダーであるEMCと調査会社のIDCが、地球上で生成されるデータ全体を「デジタルユニバース」と名付けた調査結果 ※1を発表した。この結果によると、2013年に地球上で生成されたデータの総量は4.4ZB ※2。これをPCのハードディスクでも馴染みのある単位に直すと、4兆4,000億GBにも上る。

驚くべきは、その後の予測だ。同調査では、デジタルユニバースは2020年には44ZB(44兆GB)と、10倍の規模にまで拡大するとしている。世界で生成されるデータの総量は、およそ2年ごとに倍増すると言われており、今後も世界中で扱われるデータが増大し続けるのは疑いようがない。

※1出典:「The Digital Universe of Opportunities: Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things」米 ECM、IDC(2014年4月)
※2「ゼッタバイト」(ZettaByte)の略。

ビジネスの知見を得る企業でのデータ活用

一方で、こうしたデータをビジネスに活用しようとする動きも活発化している。その背景にあるのは、コンピューターの高速化やデータを分析するための技術の進化だ。大量のデータを分析することがハードウェアとソフトウェアの両面で可能になり、ビジネスに役立つ「知見」、最近のビジネス用語で言う「インサイト」 ※3を導き出せるようになった。

例えば、2012年ごろから耳にするようになった言葉に「マーケティングオートメーション」(MA)がある。これは企業のWebサイトを訪問した人の行動履歴から、自社にとって有力なリード ※4を浮かび上がらせ、マーケティング施策や営業活動を効率化する仕組みだ。

マーケティングオートメーションは、一般に「MAツール」と呼ばれるシステムを導入することで実現する。このツール上でリードの行動や趣味嗜好をデータとして把握し、1人ひとりに合ったコミュニケーションを実施していくのが基本的な考え方となる。

※3 本来は「洞察」「見識」といった意味。ビジネス用語としては、顧客の行動や態度における潜在的な欲求や、環境変化の根底にある事実などを指す。
※4 見込み客のこと。

デジタル化の推進が企業の成長に不可欠に

また、2016年ごろから話題になることが増えた「AI」や「機械学習」も、データが重要な役割を担っている。例えば、自社のECサイトにチャットを通じた顧客とのコミュニケーションを取り入れ、そこにAIを応用するといった施策がある。

製品に関する問い合わせやクレームなど、顧客との過去のコミュニケーションがメールなどのデータとして記録されている企業は多いだろう。これをAIに学習させることで、顧客からの新たな問い合わせに対して、人を介すことなく、チャットのシステムが自律的に回答できるようになる。

MAやAI・機械学習など、企業における事業の変革、新しいビジネス価値の創出のためにテクノロジーを活用する動きは、「デジタルトランスフォーメーション」あるいは「デジタライゼーション」と呼ばれる。デジタル化の推進やデータの有効活用は、あらゆる企業が意識すべき成長と生き残りのための合言葉になってきていると言える。

業務のあらゆる領域に浸透しているデータ

MAやAI・機械学習のような先進的な取り組み以前にも、企業ではデジタル化やデータ活用が進んでいたはずだ。その主な例を下図に示した。

最強のデータ経営:ビジネスの現場で増え続けるデータに企業はどう立ち向かうべきか

企業における主なデータ活用

まず、今どきExcelを使っていない企業は存在しないだろう。売り上げ、在庫、予算と実績のほか、事業に関するあらゆるデータがExcelファイルとして社内外を流通している。これも立派なデータ活用だ。

財務会計や管理会計では、いわゆる基幹システムに当たる「ERP」 ※5や会計ソフトを導入している企業が多いはずだ。また、物流が重要なメーカーなどでは、「SCM」 ※6のためのシステムが経営の成果を高めるために貢献しているだろう。

営業部門では、Salesforceに代表される「CRM」 ※7の活用が進んでいる。商談や営業活動の進捗、受注の有無や金額、アフターフォローなどをデータとして記録し、顧客との関係構築を支援するツールだ。ほかにも独自の業務管理システムや人事管理ツールなど、現代の企業では数多くのシステムやツールが使われている。

※5 「Enterprise Resources Planning」の略。企業の経営資源を有効活用するための考え方、およびそれを実現するシステムを指す。
※6 「Supply Chain Management」の略。企業における生産・流通プロセスの全体最適化を図る手法、およびシステムのこと。
※7 「Customer Relationship Management」の略。顧客との関係を構築・管理することで収益性の向上を図る手法。そのためのツールは「CRMツール」と呼ばれる。

さらに、こうしたシステムに蓄積されたデータを別の形式で出力し、Excelなどで作成するレポートの元データとして使うのも一般化している。

例えば、ERP上の売上額と原価額、在庫数などを出力し、Excelで集計して週報や月報を作成、社内にメールで送付して事業の振り返りや今後の経営判断に役立てるのが典型的だ。また、実績を予算と対照して月や四半期ごとに達成度を見る取り組みも、多くの企業で実施されているだろう。

企業のWebサイトもデータの発生源に

ここまでは主に社内で発生するデータに目を向けてきたが、データの発生源はそれだけではない。特に近年、多くの企業で増加しているのがWebサイトに関連するデータである。

1990年代後半にインターネットが普及したあと、多くの企業が自社のWebサイト(コーポレートサイト)を公開するようになった。当初は「ネットで見られる会社案内」程度の役割だったが、製品やサービスの詳細な情報を提供することが当たり前になったほか、マニュアルやFAQといったユーザーサポートのための情報など、さまざまなコンテンツが掲載されるようになり、そのデータは肥大化の一途をたどる。

2000年代以降になると、一方的な情報提供に留まらず、問い合わせフォームを設けて顧客とコミュニケーションするためのチャネルとしても使われるようになった。また、特にBtoCビジネスを展開している企業では、製品を直販するためのECサイトが事業化されるようになる。

データが支配するWeb解析やデジタル広告

このようにWebサイトの役割が拡大することで、ユーザーの行動をいかにして把握し、顧客の理解や製品の改善に生かすかが重視されてきた。サイト内のページがどれくらい閲覧されており、訪問したユーザーはどのようなコンテンツを好んでいるのか。それはデータなくしては理解できず、「Web解析」のためのツールが多くの企業で導入されることになる。

さらには、企業や製品・サービスの認知を高めたり、Webサイトへの訪問者を増やしてコンバージョン ※8を得たりするための「デジタル広告」の活用も進んでいる。Googleの検索結果やニュースメディアの広告枠などに配信されるこれらの広告は、ユーザーの検索語句や性別・年齢、住んでいる地域、趣味嗜好などを条件とした精密なターゲティングが可能で、出稿量と予算の調整はAIによる自動化も進んでいる。まさにデータが支配する世界だ。

※8 本来は「変換」「転換」といった意味。企業のマーケティング活動においては、Webサイトやデジタル広告から得られた最終的な成果を指す。「CV」とも略される。

最強のデータ経営:ビジネスの現場で増え続けるデータに企業はどう立ち向かうべきか

膨大なデータを生み出すモノのインターネット

企業が扱うデータが増える要因として極めつけとも言えるのが、ここ数年における「IoT」 ※9の浸透だ。小型のセンサーなどを活用し、あらゆるモノをインターネットに接続しようというこの考え方は、すでにさまざまな分野で活用が進んでいる。

※9 「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳される。あらゆるモノがインターネットに接続される仕組みや考え方のこと。

IoTの代表例として挙げられるのが、工場における機械の故障検知だ。製造ラインに並ぶ機械をネットワークに接続するとともに、内部に設置したセンサーで稼働状況を示すデータをリアルタイムに取得する。

このデータからは機械の異常を検出できるほか、異常の予兆を示すデータを見つけ出すことで将来の故障を予測し、ラインの停止などのトラブルを未然に防げるようになる。ほかにも店舗内に設置したセンサーで来店客の動向をデータで把握するなど、IoTの活用範囲は幅広く、今後も多くの企業が取り組むことになるだろう。

データの「量」だけなく「種類」も増加している

本節では、過去30年ほどの間に起きたデータの爆発的増加について振り返ってきた。1つ、忘れてはならないのが、これが「量」だけの問題ではないことだ。

総体としてのデータの量が増え続けるだけでなく、それを生み出すシステムやツール、利用される分野も多岐にわたった結果、データの「種類」も爆発的に増えているというのが筆者の見立てだ。この種類の増加が、量の増加と掛け合わせの状態にあることが、企業におけるデータ活用をいっそう難しくしている。

しかし、データを有効に扱うことで、企業にとって多くのメリットが生まれるのは、もはや疑いようのない事実だ。ERPは自社の財務状況を正確に把握することを可能にし、CRMは営業部門と顧客のつながりを常に「見える化」してくれる。Web解析に基づく改善はネットにおける自社の存在価値を高め、デジタル広告やMAは新たな顧客をネットから見つけ出す役割を果たす。そのすべてが、他社よりも優位に立ち回るための競争力につながっているのだ。

テクノロジーの活用領域は広がり続けており、そこで生まれるデータを活用する取り組みは、あらゆる業界で加速している。この波を乗りこなし、最適な経営判断を下していくことを、本書では「データ経営」という言葉に込めた。CHAPTER 1-2でも引き続き、このデータ経営の前提となる昨今のビジネス環境について掘り下げていく。

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