CHAPTER 1-3
Domoの登場
データ活用の主役はIT部門や専門家から一般ユーザーへ
BIによってデータ活用は新たなステージを迎えたが、使いこなせる社員が限られるという課題も抱えている。そこに登場したのが、データをすべての社員に解放する「Domo」だ。
Domo Japan Launch(2017/10)
本コンテンツは、インプレスの書籍『最強のデータ経営 個人と組織の力を引き出す究極のイノベーション「Domo」』を、著者の許諾のもとに無料公開したものです。記事一覧(目次)や「はじめに」「おわりに」は以下のリンクからご覧ください。
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データ経営を実現するベストな選択肢
CHAPTER 1-2ではデータの爆発的増加を受けて登場した、さまざまなビジネスソリューションについて解説した。こうしたシステムやツールについて、ほとんどの企業がExcelを利用している一方で、セルフサービスBIやDWHについては一部の企業、かつ全社ではなく部門単位での導入に留まっているのが現状だ。
かく言う筆者も、近年はデータ活用のためのシステムやツールの選定に苦労してきた経験がある。筆者の会社はデジタルマーケティング分野のコンサルティングを手がけているが、この分野はWeb解析の複雑化、デジタル広告の多様化を受け、データの量・種類の増加が特に顕著だ。Excelでの分析は限界に達しつつあり、セルフサービスBIを中心に新たな解決策を模索していたところだった。
一方で、BIツールは導入しただけでは意味がなく、アクションにつながってこそ価値がある、という思いを強くしていた。そうした時期に出会ったのが、データ経営と並ぶ本書のテーマである「Domo」(ドーモ)だった。筆者はDomoを、全社的なデータ活用を推進したい経営層やすべてのビジネスパーソンに対し、前節で述べた課題を解決するベストな選択肢として提案したい。
CEOが持つ共通の課題が開発の出発点
Domoは、ビジネス系のWebメディアなどで見かける一般的なカテゴライズとしてはBIツールに分類される。確かに、データの分析と可視化ができるという点で、解釈としてはわかりやすい。しかし実際には、BIとはまったく異なるものだ。
では、BIとDomoはどのように違うのだろうか? それにはDomoが開発された経緯や、普及に至る背景を振り返るのがわかりやすいだろう。
Domo Inc.は2010年、米国ユタ州で創業した。創業者のジャシュ・ジェイムズ(Josh James)氏は、Web解析ソリューションを提供する企業である米オムニチュア
の共同創業者の1人であり、起業家として著名な人物だ。オムニチュアが提供する「サイトカタリスト」
は日本を含む世界数千社で導入され、大きな成功を収めていた。しかし、オムニチュア時代のジェイムズ氏は、CEOである自分自身が、ビジネスの意思決定に必要なデータを容易に得られないことに課題を持つようになる。そしてあるとき、ジェイムズ氏は自分だけでなく、周囲のCEOも同じことに課題を感じている事実に気づいた。自社が持つデータを経営層が活用できていない企業は、意外なほどに多かったのだ。ジェイムズ氏は2009年、オムニチュアをアドビシステムズに18億ドルで売却。新たなビジネスとしてDomoに取り組むことになる。
1996年に創業。Web解析ソリューションのパイオニアとして日本でも事業を展開していた。
Webサイトに関するデータ処理とレポート作成の機能をクラウド上で提供するプラットフォーム。現在では「Adobeアナリティクス」として提供されている。
SaaSとして提供し顧客の成功を支援
Domoの創業当時、すでに多くのBIツールが市場に投入されていた。BIが本来の役割通りに利用されていれば、導入した企業の経営層は、自社の状況をデータを通じてリアルタイムに把握できるはずである。しかし実際には、数百億ドルという予算を投じたにもかかわらず、それに見合う価値を得られた企業は少数だった。
また、当時はオンプレミス
でシステムを運用することが多く、サーバーなどのハードウェアへの初期投資に加え、多額の保守費用がかかることも導入企業にとって悩みの種だった。逆に言えば、BI関連のシステムベンダーはライセンスの販売だけでなく、保守やメンテナンスによっても大きな利益を得ていたわけだ。ジェイムズ氏はこうしたビジネスモデルに疑問を呈し、クラウド上のサービスとしてツールを提供することを目指した。こうした提供形態を表す「SaaS」
は、今でこそビジネスソリューションにおける当たり前の概念として定着しているが、当時はその代表例であるSalesforceの普及が始まったばかりのころだ。SaaSであれば、顧客企業はイニシャルコストを抑えた導入が可能になり、求める機能を必要な分だけ使えるようになる。オムニチュアにおいてSaaSのビジネスにも精通していたジェイムズ氏は、BIの世界にもSaaSを取り入れ、データ活用を推進したい企業の成功を支援するべきだと考えていた。
企業がシステムの設備(ハードウェア)を自社で保有し、主体的に運用すること。オンプレミスに対して、ネット上のサービスとしてシステムを利用するのがクラウドとなる。
「Software as a Service」の略。ソフトウェア(システムやツール)の機能をネット上のサービスとして、顧客が必要な分だけ提供すること。クラウドによる代表的なサービス形態。
Domo創業者
ジャシュ・ジェイムズ 氏
Josh James
Founder and CEO
Domo Inc.
経営者はビジネスデータを入手するためには待たなければならないと思い込まされている。まったくふざけた話だ
- Josh James
社内のあらゆるデータを1カ所に集約
SasSとして提供されるDomoは、PCの場合、ソフトウェアをインストールするのではなくWebブラウザーからアクセスする。あらかじめデータの統合や分析、可視化などが完了していることを前提とすると、IDとパスワードを入力してサインインしたのち、以下の画面のような「ダッシュボード」が表示されるのが典型的な利用例だ。
Domoのダッシュボード(PC)
ダッシュボードは複数のグラフやチャートで構成されており、これらの1つ1つは「カード」と呼ばれる。経営者や部門のマネージャーは、まずダッシュボードを見て自社や自部門のビジネスの全体像を把握し、より詳細なデータは個別のカードに「ドリルダウン」
することで確認していくのが基本的な使い方だ。データの集計・分析で用いる手法の1つ。集計範囲を段階的に絞り込み、より詳細な分析を可能にすること。
企業にあるデータが有効活用されないのは「データが1カ所に集約されていない」ことも大きい。例えばExcelなら、社員各自のPCのフォルダー内、メールの添付ファイル、ファイルサーバー、オンラインストレージなどに散在しており、どれが最新バージョンなのかわからないことがよくある。
これにERPやCRM、Web解析、デジタル広告といったシステムやツールに蓄積されるデータが加わると、必要なデータを集めるだけで大きな労力がかかる。だからといってデータを集めることを放棄すれば、現状を見誤ることになりかねない。
こうした散らばったデータが引き起こす問題は、Domoによって即座に解決される。自社や自部門のあらゆるデータをダッシュボードに集約できるため、あちこちのフォルダーを探したり、複数のシステムやツールに都度サインインしたりする必要がなくなるのだ。また、ダッシュボードやカードは自動的に更新され、常に最新のデータが表示される。
Excelを駆使した人手によるレポート作成は、Domoを導入することで不要になるだろう。さらに、Domoにサインインした時点で最新のデータが表示されるため、誰かが作業してくれるのを待たなくてよい。まさに、CEOが知りたいデータを、知りたいときに入手できるようになるのだ。
BIとは目的が異なる「ビジネスのためのOS」
この「知りたいデータを知りたいときに入手できる」というメリットは、Domoのモバイルアプリにより、さらに強調される。PCのブラウザーで見たダッシュボードは、そのすべてがモバイルアプリでも閲覧可能だ。モバイルだからといって表現力が劣ることもなく、ドリルダウンもスムーズに機能する。
Domoのカード(モバイル)
Domoはモバイルでの利用を前提に開発されているツールなのだが、これにはDomoが想定しているユーザー層も関係している。実はこの点が、BIツールとDomoを分ける決定的な違いだと言っていい。
データサイエンティストやアナリストなどの専門職を主要なユーザーとして想定しているBIやセルフサービスBIに対し、Domoは明確に「ビジネスユーザー」をメインターゲットにしている。日本語としてのビジネスユーザーは、単に「仕事で使う人」といった意味になるが、英語圏では少々ニュアンスが異なり、「販売、営業、マーケティングなどの事業系、総務・人事など管理系の業務に従事する人」を表す。経営者や各部門のマネージャーもビジネスユーザーに含まれる。
Domoが主目的とするのは、ビジネスユーザーがデータを見て現状を「診断」し、その結果を踏まえて適切かつ迅速なアクションにつなげることだ。一方、BIはデータサイエンティストなどの専門家が高度な知識に基づいてデータを「分析」し、一般ユーザーには発見できない知見を獲得することが目的だ。
BIツールとDomoの関係は、下図のように表すことができる。これを見ると両者の違いがわかるとともに、競合するというよりは、お互いを補完する関係にあることがわかるはずだ。
BIツールとDomoの関係
ジェイムズ氏は「Domoとは何か」を表現するとき、「ビジネスのためのオペレーティングシステム(OS)」というメッセージを用いる。これにはWindowsやiOSなど、PCやスマートフォンを動作させるOS=基本ソフトのように、デジタルでつながったビジネスを実現するための基本的な機能を提供する存在、という意味が込められているそうだ。
Domoは今までにない発想から生まれたツールであり、カテゴライズが難しい。「ビジネスのためのオペレーティングシステム」という呼称も言い得て妙、といったところだろう。
日本語の「どうも」に由来日本企業でも導入が進む
すべてのデータ、システム、ユーザーをデジタルでつなげる。ジェイムズ氏のこうしたビジョンを実現するために開発されたDomoだが、その風変わりな名前にも触れておこう。
Domoは日本語の「どうもありがとう」に由来し、「お客さまに心から感謝されるものでありたい」という思いから、ジェイムズ氏自身によって名付けられた。
実は、ジェイムズ氏はオムニチュアの創業以前に宣教師として来日し、2年間を日本で過ごした。ラーメンやしゃぶしゃぶなどの日本食が好きで、日本文化にも造詣が深く、日本語での日常会話も流暢にこなす。
日本での経験は、起業家としてのジェイムズ氏にも影響を与えている。2008年ごろ、ジェイムズ氏はSuicaやPasmoによるモバイル決済をはじめ、日本のモバイル市場の先進性を目の当たりにした。これは前述したモバイルを重視する姿勢にも現れていると言えそうだ。
また、マーケットとしての日本も重視しており、オムニチュアとDomoのいずれも、米国に次ぐ第2の市場として進出している。日本の顧客は品質に対して非常に厳しく、そこで受け入れられるサービスであれば世界に通用するという考えがあるからだ。
実際、Domo は日本企業でも高く評価されており、パナソニック、日本航空、全日空、ヤフー、楽天、リクルート、日本経済新聞社、JTB、ローソンなど名だたる大企業のほか、データ活用の意識が高い中小企業やベンチャーでも導入されている。
デジタルでつながる組織がデータ経営の原動力に
Domoを導入することで、企業では経営層から一般層まであらゆる社員が、場所、時間、デバイスを問わず、リアルタイムに共通のデータを活用し、ビジネスの意思決定と迅速なアクションを推進できるようになる。また、Domoが中心となることで、部門の壁を超えてデータが共有される体制を実現することも可能になる。
このようなデジタルでつながった組織を実現することこそ、データ経営を実現する原動力となり、企業の競争力へとつながっていく。この点をトップが理解しているかどうかが、今後成長する企業とそうでない企業の分かれ道となるだろう。
部門を超えたDomoの利用