CHAPTER 4-2
ストラテジーマップによる全社最適化

長期的な成長とビジョンの達成に向けたプロセスと指標を整理する

組織のパフォーマンスを最大化するには、部門ごとに閉じた戦略ではなく、全社的な戦略に基づいた上でのCSFやKPIの設定が求められる。その検討において役立つのが「ストラテジーマップ」だ。

最強のデータ経営:長期的な成長とビジョンの達成に向けたプロセスと指標を整理する

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本コンテンツは、インプレスの書籍『最強のデータ経営 個人と組織の力を引き出す究極のイノベーション「Domo」』を、著者の許諾のもとに無料公開したものです。記事一覧(目次)や「はじめに」「おわりに」は以下のリンクからご覧ください。
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部門ごとの方向性を全社の視点で一致させる

CHAPTER 4-1ではKPIマネジメントについて触れたが、筆者のコンサルティングの経験上、多くの企業が全社的なCSFやKPIを特定することの難しさに悩んでいると感じる。個々の部門として重要なプロセスや指標は見えていても、それを自社全体の戦略の方向性と一致させるのは、簡単なことではないのだ。

そこで取り組んでほしいのが「ストラテジーマップ」 ※1の作成だ。まさに自社全体の戦略を描いた地図であり、長期的な成長やビジョンの達成において必要な要素を因数分解することで、重視すべきプロセスや指標に落とし込むのに役立つ。

※1 参考文献『戦略マップ[復刻版] バランスト・スコアカードによる戦略策定・実行フレームワーク』(東洋経済新報社、2014年)

下図は、SaaS型ビジネスアプリケーションを提供するBtoB企業をイメージしたストラテジーマップの例だ。最終的なゴールであるビジョンとKGI、それを達成するためのプロセス(=CSF)、プロセスの達成度を評価する指標(=KPI)と具体的な目標値をまとめている。

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BtoB企業のストラテジーマップの例

ストラテジーマップで注目すべき4つの視点

上図は簡略化した例で、BtoB企業の全社的なCSFやKPIには、ほかにもさまざまなものがある。ただ、代表的なプロセスや指標の参考にはなるはずだ。

ストラテジーマップでは、上層から「財務の視点」「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」という4つのステージごとにプロセスや指標を検討することがポイントになる。それぞれの視点を以下に説明しよう。

財務の視点

「自社が株主に提供しなければならないものは何か?」が財務の視点だ。ここでの戦略は大きく「生産性向上」と「収益増大」の2つに分けられる。

先の図にあった「原価構造の改善」「顧客獲得コストの改善」は生産性向上、「新規契約規模の拡大」は収益増大に該当するプロセスとなる。

顧客の視点

「財務の視点を達成するために、自社は顧客にどのように見えるべきか?」が顧客の視点だ。

ここで重要なのは、自社の製品やサービスを通じて顧客にどのような価値を提案するのかを考えることであり、以下に関連するプロセスや指標に分解できる。図中では価格、品質、ブランドの例を挙げた。

  • 価格
  • 品質
  • 入手可能性
  • 品揃え
  • 機能性
  • サービス
  • パートナーシップ
  • ブランド

内部プロセスの視点

顧客への価値提供を支えるのが内部プロセスの視点で、「顧客を満足させるために、自社はどのプロセスに注力すべきなのか?」を表す。

ここでは「業務管理のプロセス」と「顧客管理のプロセス」を中心とした戦略が重視される。図で示した「アウトソーシングの拡大」は業務管理、「顧客の選別」「顧客の獲得」は顧客管理のプロセスだ。

ほかにも、新製品や新サービスを開発する「イノベーションのプロセス」、地域社会や環境に貢献する「規制と社会のプロセス」も想定できる。

学習と成長の視点

「変革を実現し、能力の向上をどのように維持し続けるか?」を定めるのが、学習と成長の視点となる。ここでは企業が持つ3つのリソース、すなわち「人的資本」「情報資本」「組織資本」に沿ったプロセスを考える。

図で挙げた「パートナー育成の強化」は人的資本、「チーム体制の強化」「働きやすい環境の提供」は組織資本に当たる。情報資本には、社内勉強会による学習・教育などのプロセスがある。

以上の視点とプロセスのそれぞれに具体的な指標と目標を設定していくことで、ストラテジーマップが完成する。過去の実績データなどを観察しながらKPIになりうる指標を見つけ、KGIに照らした具体的な目標に落とし込もう。

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顧客提供価値戦略に基づいて4つの視点を整理する

このストラテジーマップの作成を、CHAPTER 4-1で解説したKPIマネジメントのステップに組み込んでいくと、以下のような流れになる。

  1. マネジメント層のコミットメント
  2. KliI計測責任者のアサイン
  3. ゴールの特定とKGIの確認
  4. 顧客提供価値戦略の明確化
  5. 「財務の視点」の整理
  6. 「顧客の視点」の整理
  7. 「内部プロセスの視点」の整理
  8. 「学習・成長の視点」の整理
  9. ストラテジーマップに沿ったKliIと目標値、アクションプランの整理
  10. 現場や関係者への周知
  11. ダッシュボードの構築

5〜8は前述のとおり、4つの視点ごとにプロセスや指標を検討する。1〜2と10〜11はKPIマネジメントのステップと共通しているので、以下では3、4、9について説明しよう。

3. ゴールの特定とKGIの確認

ストラテジーマップにおけるゴールとしては、「今後の2〜3年で何をもって成功とするか?」を考えるといいだろう。自社の経営理念や価値観、ビジョンをベースに検討する。KGIとなるのは財務的な指標、例えば売上額や利益額になる。

4. 顧客提供価値戦略の明確化

「顧客提供価値戦略」とは、ストラテジーマップの全体を通して何を重視するかを定めた、全社的な戦略の方向性のことだ。4つの視点におけるプロセスを整理する上での柱となる。

引き続きBtoBのソリューションで例えるなら、以下のような顧客提供価値戦略が考えられるだろう。

  • 最低のトータルコスト
  • 製品リーダー
  • 完全な顧客ソリューション
  • システムロックイン

「最低のトータルコスト」は、安定した品質でタイムリーに、かつ低価格でサービスを提供することを重視した戦略だ。コストパフォーマンスの追求、「業界最安」といった競争的価格の実現が、各視点のプロセスを検討する上での優先事項となる。

「製品リーダー」の戦略では、サービスの機能などを非常に高いレベルにまで拡張することを目指す。日本初・世界初を狙ったり、新しい市場セグメントに参入したりするのもこの戦略の1つだ。4つの視点では、新機能の開発やマーケティング、プレミアム価格の設定などが重要になる。

「完全な顧客ソリューション」は、綿密なサポートやカスタマイズしたソリューションなどの提供により、顧客生涯価値 ※2の最大化を図る。

「システムロックイン」は、幅広い製品ラインナップや業界標準の機能、安定した基盤によって、競合へのスイッチングを抑制する戦略だ。

※2 1人または1社の顧客が、生涯(顧客ライフサイクルの全期間)を通じて企業にもたらす利益のこと。「LTV」(Life Time Value)とも呼ぶ。

9. ストラテジーマップに沿ったKPIと目標値、アクションプランの整理

顧客提供価値戦略に基づき、財務・顧客・内部プロセス・学習と成長の4つの視点を整理したら、それぞれのプロセスに対応するKPIや目標値を設定していく。

さらに、それを実現するための具体的なアクションの検討も進める。ストラテジーマップの図では、内部プロセスの視点における「顧客の選別」で、「KPI:リード数、目標:前年比+30%」と定めた例を挙げた。それを達成するためには、有望なイベントに出展する、重要な得意先企業の未導入部門を狙うなどのアクションが考えられるだろう。

こうしてストラテジーマップを作成すると、部門や個々のチームに閉じたCSFやKPIの最適化ではなく、全社的な最適化を図ることが可能になる。経営者やマネジメント層にとっては、立案した戦略を確実に実行する上でメリットが大きい。

個々の社員にとっても、会社が目指している方向や、自分の取り組みが組織にどう貢献しているのかが明確になる。これは日々の業務のモチベーションにつながり、現場の強さや組織としての成長につながっていくはずだ。

最強のデータ経営:長期的な成長とビジョンの達成に向けたプロセスと指標を整理する

データドリブンな組織はストラテジーマップで完成する

そして、KPIマネジメントとストラテジーマップによって明らかになったKPIをDomoでモニタリングすることは、結果しか見えていない経営からの脱却と、迅速な意思決定に基づくアクションをもたらしてくれる。

現状を踏まえ、決められた期日までにKGIが達成可能なのかを見極められるのは、適切なKPIの設定があってこそだ。もし現状のペースでは達成が不可能でも、原因の分析や巻き返しのアクションをすばやく検討できる。

また、KPIが全社的に理解されることで、会議においてデータの読み解きに費やす時間がなくなる。リアルタイムにKPIを把握できれば、最終的な結果が出る前に何をすべきかを判断し、有効な施策を打てるだろう。

Domoによるデータドリブンの実現は、KPIマネジメントとストラテジーマップによって完成する。設定したKPIをDomoで可視化すれば、誰もがストンと理解できるカードやダッシュボードができあがるはずだ。

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