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ドーモ株式会社 [ 代表取締役 ジャパンカントリーマネージャー 川崎友和氏]
経営者が社外の誰かに見せたくなる、今までにない光景でイノベーションを確信
誰もがデータにアクセスできる、まったく新しいビジネス環境を生み出したDomo。これまでの普及と今後の展望を、日本法人ではどのように考えているのか。本書の締めくくりとして、トップの川崎友和(かわさきともかず)氏へのインタビューを収録する。
写真撮影:蔭山一広(panorama house)
本コンテンツは、インプレスの書籍『最強のデータ経営 個人と組織の力を引き出す究極のイノベーション「Domo」』を、著者の許諾のもとに無料公開したものです。記事一覧(目次)や「はじめに」「おわりに」は以下のリンクからご覧ください。
最強のデータ経営 - 全文Web公開の記事一覧
デジタル広告からWeb解析、そしてDomoへ
杉原 まず、Domoに携わることになった経緯からお聞かせください。
川崎氏 もともとはLookSmart(現バリューコマース)でデジタル広告の営業に従事していましたが、当時のお客さまから「本当に貴社の広告から成果が出ているのか」と聞かれることが少なくありませんでした。
私たちとしては、広告から価値の高いトラフィックを生み出せているという確信があります。しかし、お客さまである広告主は、そう感じていない。この溝はどこから生まれるのかを考えたとき、「お客さまにとって使いやすい、データを分析・評価する仕組みがないからではないか?」という点に行き着いたのです。
ならば、自分がWeb解析ソリューションを提供する側に回り、その溝を埋めていこう。そのような思いを抱いて入社したのが、オムニチュアでした。オムニチュアはサイトカタリスト、現在のAdobeアナリティクスの開発元です。
オムニチュアはアドビシステムズに買収されることになりますが、私は継続してデジタルマーケティング営業部門の責任者を務めていました。そして2012年からDomoにジョインし、現在に至っています。
杉原 アドビシステムズからDomoに移ることを決めたきっかけは、何だったのでしょうか?
川崎氏 アドビシステムズは企業向けWeb解析ソリューションの分野で圧倒的なシェアを持ち、さらにマーケティングのためのプラットフォームも有しています。非常にパワフルな布陣ですが、それらはデジタルの領域に限定されており、私は小さなフラストレーションを感じていました。デジタル専業ではない企業の経営者の方から、「もっとビジネスの中心にあるデータも見たいんだよ」というお話を聞く機会が多かったためです。
そのような中、オムニチュアの元CEO、ジャシュ・ジェイムズが新しい会社を作ったと聞きました。それがDomoなわけですが、はじめはコンセプトを聞いても、正直よくわからない。そこにマーケットがあるのかも含めて。今となってはおかしな話ですけれども。
しかし、Webサイトやデジタル広告を超えた幅広いビジネスのデータ、経営に直結するデータを扱えるようになりたいという私の思いを、Domoは叶えてくれるに違いない。そう考えて、Domoへの参加を決心しました。
ドーモ株式会社 代表取締役 ジャパンカントリーマネージャー
川崎友和 氏
LookSmart(現バリューコマース)の営業・新規事業開発責任者を務めたのち、アドビシステムズ、オムニチュアにて営業部門を統括。2012年にドーモ株式会社へ入社、日本市場における営業責任者として組織の立ち上げとビジネスをリードする。2015年、ジャパンカントリーマネージャーに就任。
ジャシュ・ジェイムズ氏からかけられた意外な一言
杉原 現在は日本法人の代表ということで責任も重いと思いますが、引き受けた理由を教えてください。
川崎氏 BIツールを知らないからこそ、新しいマーケットを創出できる。ジャシュが持っていた、この期待に応えたいと思ったのが、カントリーマネージャーを引き受けた大きな理由ですね。
また、当時は日本市場における強いセールスリーダーシップが求められていましたが、ジャシュから評価されたのは、私のスタートアップ企業での営業経験でした。
ジャシュとの会話で印象に残った一言があります。「あなたにはBI業界の経験がない。だからいいんだ」と。
お客さま、あるいは部外者の立場としてDomoを見たとき、広い括りとしてはBIツールに含まれるように見えるでしょう。しかし、ジャシュも私も、DomoはBIツールとは違うという思いを強く持っており、事実、両者はまったく異なるものです。
仮に、BIツールのビジネスをよく知っている方がDomoのマーケットを新たに作り出していこうとすると、相当な違和感が生じるだろうと思います。DomoはBIツールではないわけですから。
デジタルの領域を超えた多様なビジネスへと拡大中
杉原 最近の日本におけるDomoのビジネスについて教えてください。
川崎氏 マーケットの活性化を肌で感じています。ビジネスを開始した当初はアーリーアダプターによる導入が多かったのですが、現在ではさまざまな産業での採用が進むなど、数多くのお問い合わせをいただくようになりました。
また、お客さまの顔ぶれも変わってきています。当初は、私がこれまでにお付き合いさせていただいていた、デジタルの領域に相応の投資を行っている企業が中心でした。しかし現在では、歴史のある大企業で、デジタルに留まらない複雑かつ多様なビジネスを展開している企業からお声がけいただくケースが増えています。
「働き方改革」が広く議論されるようになったほか、ビジネスモデルの多様化が進み、さらにグローバル市場への進出が多くの企業で行われるようになるなど、経営環境が大きく変化しています。こうした変化の中で、経営者やマネジメント層の方々は「今のままではダメだ」という危機意識を強く持たれていると感じています。その課題の解決策として「自社の状況を詳細に、かつリアルタイムに近い形で把握しておきたい」というニーズが生まれているのではないでしょうか。
Domoに関するお問い合わせも、当初はマーケティング・営業分野が中心でしたが、最近ではカスタマーサービスや人事・財務などでの採用も進み、プロジェクトの幅が大きく広がっています。
Domo Japan Launch(2017/10)今のままではダメだ、という危機意識を日本の経営者やマネジメント層の方々から感じます
Domoの導入が先行しているマーケティング分野の実情
杉原 ニーズの高いマーケティングの分野で、Domoはどのように評価されているとお考えでしょうか。私自身、デジタルの領域でのマーケティングを専門としていますが、やはりデータのボリュームが大きく、ビジネスに生かすことの大変さを感じています。
川崎氏 デジタルマーケティングはテクノロジーの進化が速く、扱うデータの量だけでなく、種類も飛躍的に増加している分野です。
加えて、マーケティングの業務ではデータを見て考えることが重視されるため、周囲も具体的な数値でのレポーティングを求めます。報告先は社内のみならず社外に及ぶこともあり、レポートの作成に大きな負担が生じているのは、この分野では有名な話です。中にはレポーティングツールを自社開発する企業もありますが、運用や保守、セキュリティ対応などの面で多大な費用が発生しがちです。
また、レポートを作成する間隔も大きなテーマでしょう。2週間に1回、場合によっては月1回という形でしかレポートを作成できない現場は多く、それではリアルタイムとは言えません。複数のキャンペーンを実施したときの相関関係など、高度な分析への取り組みが不十分なケースもあります。
そのような課題意識がある企業にDomoを見てもらうと、データが自動的にプラットフォームに集約されること、さらにUI/UX
が一般のビジネスユーザー向けに作られていて使い勝手がいいことを、特に評価していただけます。Domoがマーケティングの分野で採用されている背景には、このように既存の課題を解決できるツールだと認識してもらえたことが大きかったと考えています。UXは「User Experience」の略。ユーザーが製品やサービスを通じて得る体験のこと。
Domo Japan Launch(2017/10)ビジネスユーザー向けに作られたUI/UXの使い勝手がいいことを、特に評価していただけます
Domoはビジネスユーザーが自分の意志で使えるツール
杉原 「DomoはBIツールとは異なる」というお話がありました。また、Domoは極めて多機能で、人によっても見方が変わるのではないかと思います。川崎さんご自身は、Domoをどのように捉えているのでしょうか?
川崎氏 「分析の専門家ではないビジネスユーザー、すなわち経営者から現場までが、リアルタイムに自分の意思で直接データを活用してアクションを起こせる初めてのツール」だと考えています。
私自身も以前は、営業チームのレポートを見たいときは、アシスタントにExcelでレポートを作成してもらっていたこともありました。つまり、データを見るためには、誰かに依頼する必要があったわけです。
レポートを第三者に作ってもらうということは、自分が見たいタイミングでは見られないことになります。さらに言えば、ミスが入り込んでいる可能性もある。もっと言うと、データが意図的に改ざんされている可能性もあります。これは誰であってもフラストレーションを感じるはずです。
しかし、Domoを使えば私が見たい瞬間に、見たい形で見ることができます。データソースが一元化されていて、出力も自動化されているため人為的なミスや主観が入り込む余地もない。こうした点がDomoの非常にパワフルなところでしょう。
エグゼクティブ向けのイベントで驚いたワンシーン
杉原 実際にDomoを導入したことで、ユーザー側に変化が起きていると感じることはありますか?
川崎氏 以前、エグゼクティブ向けのイベントを開催し、多くの方々にご参加いただきました。そのとき、ある企業の経営者の方が、ほかの企業の方に対して「うちはこんなふうにDomoを使っていますよ」と、自分のスマートフォンを見せていたのです。その画面には、Domoのダッシュボードが映っていました。
もちろん、機密につながるようなセンシティブな情報は表示されていなかったと思いますが、それでも自社の使い方を社外の人に見せるというのはすごいなと。その会話が非常に盛り上がっていたのも印象的でした。
Domo Exective Dinner(2018/04)
データサイエンティストやエンジニアなど、高いITスキルを持っている方々がツールを使いこなすのは、当たり前のことだと思います。しかし、Domoの場合は経営者の方々が、ポケットから取り出したスマートフォンで誰かに使い方を説明している。確実にイノベーションが起きているのだなと、あらためて実感した瞬間でした。
また、これは弊社での話ですが、新入社員の歓迎会で面白い出来事がありました。四半期締め日の酒席の場なのに、営業チームのメンバーが一斉にスマートフォンを見ている。新入社員には異様な光景に見えたようですが......実は各自、自分の営業成績の状況を確認していたのです。日本が閉まったあとにマーケットが開く、米国やヨーロッパの営業成績も含めて。
通常は月末に締めたあと、数日が経ってからでないとわからない数値を、Domoならスマートフォンでリアルタイムに把握できるのです。自分たちの明日の業務に備えて、少しの時間だけ状況をチェックして、すぐに談笑の輪に戻りました。
杉原 それを知らない新入社員の方々は、ちょっと驚いたでしょうね。
川崎氏 そうしたところを見ても、やはりDomoは本当に「ビジネスユーザーが使うツール」なのだと思います。
私はこれまでさまざまなツールを販売してきましたが、自分でも使っているツールはDomoが初めてです。カントリーマネージャーである私自身がいちばん使っているツールが、Domoなのです。これが、すべてを物語っているのかなと思います。
マネジメントの立場にいる私自身がいちばん使っているツールが、Domoなのです
アクションまで集約されるのがDomoの大きな強み
杉原 Domoはいわゆる「C-Level」
の方々が直接的に使う、初めてのビジネスソリューションではないかと思います。これまでのツールとは何が違うと感じますか?CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)など、企業の経営幹部のこと。「C」は「Chief」を指す。
川崎氏 さまざまなお客さまとDomoのプロジェクトを進める中で、これまでのツールとは違うなと感じる点はいくつもあります。ただ、その中で特に大きいのは、やはり「アクションにつながる」点だと思います。
結局のところ、データは眺めているだけでは意味がありません。そこから何らかの行動を起こすことが大切ですと、よくお話ししています。
しかし実際には、アクションにつながっていないレポートが、この世の中にはたくさん存在しています。例えば週1、月1のスパンでExcelのレポートが作成され、それをプリントアウトして会議で配布する。そのうえで担当者が数字を説明するというのはよくある場面ですが、私自身の経験で言えば、それがリアルタイムなアクションにつながった記憶はほぼありません。
一方、Domoであれば関係者全員がリアルタイムでデータにアクセスできるだけでなく、異常があればアラートで通知してアクションを促せます。関係者が一斉に気づいて、即座に対応することも可能でしょう。このアクションにつながるまでの一連の流れが、1つのプラットフォームに集約されているところがDomoの強みであり、本当に秀逸だなと感じています。
経営者の活用と部門を超えた連携が変革につながる
杉原 Domoでビジネスが変わった事例について、川崎さんの印象に残っているものを教えてください。
川崎氏 最初に思い浮かぶのは、社長自らDomoを使っているお客さまの事例です。アラートの機能を使い、何かあれば社長自身が即座にそれを察知して現場に指示を飛ばす。それによって確実に業務が改善され、ものすごいスピードでビジネスが進むようになりました。Domoを導入した企業で、経営者やマネジメント層がデータを見て、アクションを実施している企業は増えていると実感しています。
また、部門を超えた連携を実現している事例も印象深いです。複数の部門でデータを共有したいのに、実際にはできていない企業は多いものです。例えば、コンタクトセンターに集まるお客さまの声を、製品開発や営業、マーケティングの現場で生かせていない。そうした課題をDomoによって乗り越えたというお話を聞くと、私としてもうれしくなります。
さらに、近年増えているリテールや小売業での活用にも注目しています。ある企業のストアマネージャーはデータの多くを見られませんでしたが、Domoの導入により、自分が担当している店舗やエリアの状況を見られるようになった。それによって自分たちが自社のビジネスにどの程度貢献しているのかが把握でき、別の店舗の状況を見ることで健全な競争心も生まれます。なおかつ、データに基づいて効率的に業務を回していくことで店舗スタッフの意識も向上し、売り上げが拡大していった事例があります。
人事・財務部門での導入やKPIコンサルティングも視野に
杉原 今後のドーモ株式会社としてのビジネスの展望を教えてください。
川崎氏 Domoは経営者はもとより、マーケティングや営業での導入が先行していますが、今後は人事・財務などさまざまな部門で、さらにニーズが高まると考えています。なぜなら、クラウド型の人事評価ツールや会計ツールが広まり始めているからです。
また、これらの部門は管理業務だけでなく、より戦略的な部門としてビジネスに貢献することが求められるようにもなっています。
新しいビジネスソリューションの普及が進むと、オペレーションが効率化される一方で、データの増大も顕在化していきます。そうすると、どこかにデータを集約して適切に見られる環境を作る必要性が生じ、Domoの出番がやってくるわけです。さまざまな部門の方々にDomoを提供することで、お客さまのビジネスに貢献できればと考えています。
加えて、私たち自身がビジネスコンサルティングに取り組むことも、強化したい領域の1つです。実際にお客さまのお話を伺うと、部門最適化のためのKPIは設定されていても、全社最適化のためのKPIの設定には苦労されているケースが多い。会社全体のストラテジーマップの策定についても、難しさを感じられている企業が多いのですが、適切なKPIの設定はアクションを生むために不可欠です。
Domoを販売する立場として、お客さまがそれを万全の体制で受け入れられる状態にすることも私たちのミッションでしょう。それをコンサルティングによってお手伝いしたいというのが大きな目的になります。
杉原 最後に、川崎さんご自身の今後の目標を教えてください。
川崎氏 私自身の思いとしては、やはりDomoをデファクトスタンダードにすることを目指しています。Web解析の分野であれば、データを可視化・分析する手法や用語の定義などが、協会やコミュニティによって共有されています。これと同様に、ビジネスデータを可視化、活用するベストプラクティスなどを多くの方々と話し合える枠組みを、Domoをベースに作りたいと考えています。
もちろん、ビジネスは非常に複雑で多様性に富んでいるため、一般化が難しい部分もあるでしょう。それでも、ビジネスユーザーの方々とコミュニティを築き、その中でビジネスをよりよくするための話し合いができれば、たいへん有意義だと考えています。
KPIやストラテジーマップの策定支援も今後取り組んでいきたい領域です
杉原 それはすごくいいですね。私も期待しています。ありがとうございました。